いざ、秋山郷!  “トレイルを歩く旅”スタート

 午前9時。旅のスタート地点「秋山郷結東温泉 かたくりの宿」へ。

 出発前に外のテラスで地図を開いて、旅のルートを確認します。今回は結東~見倉~逆巻~結東と信越トレイルのセクション9の中から日帰りで気軽に楽しめる周回コースをピックアップ。1周約8kmを巡って、最終的にまたかたくりの宿に戻るコースです。

「およそ4、5時間、秋山郷をぐるりと周るコースをゆっくり巡ります。出発前に、かたくりの宿で飲み物を購入したり、お手洗いなど済ませておいて(道中には、お店や自販機はほぼ見当たらず……!)。トレイル歩きを終えた後には、宿の温泉が待っているのが今回のご褒美でありこのトレイル旅の“ピーク”。密かな楽しみです」(星野さん)

 夏の面影を残しつつ、少しずつ木々が色づき始める秋山郷。足を進めるたびに空気はひんやり、どこからか漂う土と木の香りに癒されます。

 歩き始めて10分ほどで、最初の見所「見倉橋」に到着。エメラルドグリーンに輝く中津川と、レトロな木の吊り橋......秋が深まる頃には紅葉とのコントラストに思わず驚嘆します。この美しい景色と、ゆれる橋のスリルを味わいに、この橋を目当てに訪れる観光客も多数。ちなみにこの吊り橋は、映画『ゆれる』の舞台としても知られています。

「見るからに揺れそうですが、本当によく揺れます(笑)。あまりの揺れに一瞬戸惑うかもしれませんが、橋を渡った先にも素晴らしいスポットがたくさんあるので、ぜひ頑張って渡ってください」(星野さん)

 見倉橋で素晴らしい渓谷を堪能した後は、橋の先の「見倉集落」へ。約1kmほど山道を上がった先に、文人・鈴木牧之が「桃源郷」と称した絶景が広がります。里山の原風景が色濃く残り、まるで時が止まっているかのような見倉集落。日常とあまりにもかけ離れた生活を目の当たりにすると、なんだか少し自分の中の価値観に変化が生じるような......そんな心の機微を感じたりするのも旅の醍醐味です。

 見倉集落を抜けた後は、林道秋山線を下って猿飛橋方面へ向かいます。舗装された道は歩きやすく、見晴らしも良好。木々が色づき始める秋の透き通った青空と吹き抜ける風、木の香り......全身で自然を感じていると呼吸も深くゆっくりに。歩けば歩くほど心が解放されるような心地よさを感じられます。

「数キロ歩くごとに、道や景色のバリエーションが変化するのが面白いですね。見倉橋から急な山道を登って集落を抜けた後、舗装された道を歩くのですが、下りだから体力的な面ですごくラク。林道秋山線は、車も通る道ではありますが道路の両側の景色が素晴らしく歩いていてすごく楽しい。途中にある、『苗場山麓ジオパーク』の岸壁を真正面から眺められるビュースポットは圧巻です! 」(星野さん)

 とはいえ旅の中盤、そろそろ疲れを感じ始めるのがこのあたり。対岸に見えるジオパークを眺めながらこの辺りで一息。

「道路の脇に湧水のスポットを見つけたらぜひお試しを。飲むと冷たくて美味しいですし、汗でベタついた手などを洗うとリフレッシュできますよ」(星野さん)

 トレイルを歩く途中で飲み水が足らなくなってしまった......ということも予想されるので、お手持ちの水筒に湧水を補給するのもおすすめです。

 林道秋山線を3kmほど歩きトンネルを抜けた先には、ひっそりと佇む「猿飛橋」。猿飛橋は、四季折々の自然美が楽しめる秋山郷の景勝地のひとつです。中津川で最も狭い断崖の上にかかっているのだそう。文人・ 鈴木牧之の紀行文にも登場することでも知られています。この猿飛橋の下の淵には白い龍が棲むという、白龍伝説も。そんな土地の伝説も、旅をより奥深いものにしてくれます。

2025.09.21(日)
文=天野真由美
写真=峰岡歩未
動画=柿崎 剛