みなさんは、「SEA TO SUMMIT®」という日本の環境スポーツイベントをご存知でしょうか。文字どおり、海(湖)からカヤックでスタートし、自転車で里を駆け抜け、そして登山で山頂をめざす大会です。

今年8月、創業50周年の節目を迎えたアウトドアブランド「モンベル」の辰野勇会長が発案し、2009年の鳥取県「皆生・大山大会」から始まったこの大会は現在、全国11か所で開催されています。
今回は、自然の循環に思いをめぐらせ、かけがえのない自然について考えようという思いも込められた「びわ湖 東近江 SEA TO SUMMIT® 2025」に筆者も参加してみました。

自然と歴史が豊かな滋賀・東近江を、目いっぱい体感
「運動不足の僕が、本当にゴールできるんだろうか……?」
パンフレットには「カヤック8km、バイク28.5km、ハイク3.5km」と書かれている。合計40km……。だけど、地元の滋賀県で開催される大会なので、ぜひ挑戦してみよう――。

そんな思いを胸に、環境スポーツイベント「SEA TO SUMMIT®」に参加した。舞台は、滋賀県東近江市。琵琶湖と鈴鹿山系に抱かれた、自然と文化の懐が深いまちだ。
カヤック――朝日と静けさに包まれる、“湖の目線”
朝5時、起床。長浜市の実家から車を走らせ約45分で、会場に到着する。

スタート地点は、琵琶湖の入り江「能登川水車とカヌーランド」。ここは、全国でも珍しい水車とカヌーの複合施設で、地元の子どもたちにも親しまれる“水辺のオアシス”。湖とともに暮らす東近江らしい、自然との共存の象徴のような場所だ。
集合した参加者はみな、今年の開催を心待ちにしていたのか、昂揚感で満ちあふれている。かたや筆者は「カヤックなんて初めてやし、うまく漕げるかな……」と不安な気持ちになっていた……。
すると、会場へ応援に駆けつけていたのは「喜楽長」でおなじみ、地元・喜多酒造の社長で、高校の同級生の父親でもある、喜多良道さん(大会・実行委員長)。「ケガにだけは気いつけて、がんばってや!」と笑顔で励ましの声をもらい、不安な気持ちが和らいだ。

スタッフの方から簡単なレクチャーを受けて、いよいよ出艇。今回は取材ということで、先頭集団でスタートさせてもらうことになった。
安定感のあるカヤックに乗り込むと、驚くほどすんなりと湖面を滑り出した。パドルを湖に差し込み、一漕ぎ、また一漕ぎ。風もなく、朝日を浴びる湖は、まるで鏡のよう。

普段から運動している参加者が多いのか、先頭集団だった筆者は、あっという間に最下位に……。最初から、こんなにもハードなのかと、また不安な気持ちがよぎる。

そんななか、ふと遠くから声が響いた。
「がんばれ! その調子、その調子!」
顔を上げると、筆者のすぐ左手に、別のカヤックが折り返してきていた。乗っていたのは、なんとモンベルの創業者・辰野勇会長ご本人、御年77歳(大会時)。笑顔でパドルを握り、参加者ひとりひとりを励ましてくれているではないか……!

「大丈夫、大丈夫。自然の中では、速さよりも、楽しむことが大事やで」
その言葉に、肩の力がふっと抜けた。企業のトップがみずから大会に出て、汗をかきながら伴走してくれるなんて――。それは、モンベルが掲げる「誰もが自然とともにある社会」の理想を、まさに体現しているようだった。

カヤックは、約8キロの行程。普段あまり運動ができていない筆者は、後半には腕がパンパンだったが、不思議と苦しくはなかった。なぜならば、ほかの参加者たちも優しく声をかけてくれ、励ましてもらい、楽しく漕ぎきることができたからだ。

岸に戻ると、参加者から拍手で迎えられ、次なる里(自転車)へ向かうことになった。
2025.08.24(日)
文・写真=CREA編集部