「ここからは大人の時間だから、チョッちゃんは帰ろうね」
――撮影現場の雰囲気も良かったのでしょうね。
古村 共演者の皆さんが温かく見守ってくださっていたなと、ありがたく思い出します。撮影が休みの日に、キャスト10人ぐらいでよくご飯に行っていました。当時私は21歳で、お酒も飲める年齢だったんですが、1次会が終わったところで由紀さおりさんや佐藤オリエさんが「ここからは大人の時間だから、チョッちゃんは帰ろうね」とおっしゃるんです。翌日の撮影を考えて言ってくださっているとはわかりつつも、「この後もみんな、楽しくやるんだろうな……」なんて、ちょっと拗ねながら帰りました(笑)。

――仲の良さは画面からも伝わってきます。
古村 なので撮影の後半には「もうすぐ終わっちゃうのか」という寂しさが押し寄せてきましたね。だんだん撮了のカウントダウンが始まってくると、皆さんが「チョッちゃん、もう終わっちゃうね」なんてからかいながら私の様子をうかがってきたりして。クランクアップの日は、「明日からもうここに来なくなるんだ」と思うと、なんともいえない感情が湧いてきました。全部撮り終わって次の作品に入っても、うまく切り替えができなかったことを覚えています。
――印象に残っているシーンはありますか?
古村 オーディションに受かった後のインタビューで、「朝ドラで生放送をやってみたい」と言ったことがあるんです。『ムー一族』(TBS)が大好きだったので、あんな感じで1回まるごと生放送でやったら面白いんじゃないかと。実現には至りませんでしたが、生放送に似た緊張感の長回しのシーンがけっこう多かったんですよ。私はそれがすごく好きで。
行方知れずだった邦ちゃん(宮崎萬純)が蝶子を訪ねてきて、神谷先生(役所広司)と同棲していることを打ち明けた後、窓から顔を出して雨に打たれるシーン(42回)は印象深いです。要さん(世良公則)が蝶子に恋の告白をする回(54回)は、14分にもわたる1シーンでした。金子先生が、「君が『生放送をやってみたい』と言ってたから、代わりにああいうシーンを入れたんだよ」とおっしゃってくださって、すごく嬉しかったです。

息子の反応は「あんまり変わらない」「昔々の母さんの姿を見ても…」
――撮影中は現場から元気をもらったとおっしゃっていましたが、38年越しに今、毎朝『チョッちゃん』をご覧になって、また元気をもらえていたりしますか?
古村 もらってますねえ。今回初めて生活の一部として毎朝観ながら物語を追ってみて、「ああ、こういう作品こそ『連続テレビ小説』なのかもしれないな」と思いました。あまり全部を説明しすぎないで、ドラマのなかに余韻がある。面白いものを作ろうという「本気」が感じられますし、視聴者をとても信頼してくれている感じがするんですよね。
――息子さんたちはご覧になっているんでしょうか。
古村 今は三男と2人暮らしなんですが、ちょうど私が『チョッちゃん』を観ている時間に起きてきたりするので、「面白いから観たらいいよ」って勧めるんですけど「昔々の母さんの姿を見ても、楽しめないよね」と(笑)。お世辞で「あんまり変わらない」とは言ってくれましたけれど。それだけ蝶子が、私の素に近いんでしょうね。
〈46歳で子宮頸がんになり子宮を全摘→5年後の再発→再々発で今度は全身に…古村比呂(59)が忘れられない“1枚の写真”「明らかに膿んでいるような状態で変色も…」〉へ続く

2025.08.12(火)
文=佐野華英