夜明けの薔薇が放つ香りは……
右:一面の薔薇畑にピンクのダマスクローズが勢いよく咲いていた。もともと自生していたというだけあって野生味にあふれている。
翌朝は、夜明け前の5時にロビー集合。昨日買ったローズウォーターを使ったので、寝不足ながらも肌がしっとりしている。ノーマルとストロングがあってストロングのほうを買ったのがよかったのかもしれない。まだカーシャーンの町は漆黒の闇の中だ。前日に見つけた町外れの薔薇農園へと車を走らせた。道路脇に車を停め、小さなライトを頼りに薔薇畑へと降りていく。
薄暗い中、既に薔薇摘みが始まっていた。ダマスクローズは、日が昇って気温が上がると香気が飛んでしまい、クオリティが落ちてしまう。早朝に摘む必要があるのはそんな理由から。前日とは違い、開きかけの薔薇たちが強い芳香を放っている。それは、今まで取材したモロッコ、トルコ、ブルガリア、フランスの、どのダマスクローズとも違う、甘さの中にほのかなスパイシーな香りが加わって奥深かった。
右:こちらの蒸留所では、収穫の時期になると4つの釜がフル稼働だ。1度に使用する花びらの量は、正確に量って濃度を調整している。
撮影をしつつ、薔薇摘みを手伝おうと花に手を伸ばすと、「イタタタタ!」指にトゲが刺さった! 他の国ではそんなことはなかったのに、もともと自生していたという野生の生命力か、イランのダマスクローズはトゲが鋭い。
その後は、また車で移動して、少し大きな蒸留所を見学させてもらうことに。大きな釜に薔薇の花びらを入れ、大きなネジで蓋を固定する。その蓋から続く細長いパイプから出て行く水蒸気を水で冷やすとローズウォーターができるというしくみだ。火をつけてしばらくするとパイプの先から無色透明な液体がしたたり落ちる。ローズウォーターだ!
容器に取り分けてもらって香りを確かめ、試飲すると、芳しい香りとともに苦みを感じた。強い芳香と苦みはこの地方のダマスクローズの特徴だそうで、同じイランでも他の産地のローズウォーターはこんなに苦くないのだとか。さっそく蒸留したてのローズウォーターをボトリングしてもらって購入。頭の中では、すかさず帰りの預け手荷物の重量計算を。大量の液体物は機内持ち込みができないので、行きのスーツケースの重さにプラスする必要があるからだ。上質のローズウォーターを手に入れてウキウキとホテルに戻った。
2014.06.03(火)
文・撮影=たかせ藍沙