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絶景を望む鳳閣寺で修験道のルーツに触れる

 地蔵峠からゆるやかな坂を登り、春日大社と同じ神様が祀られているという「鳥住春日神社」を越えると、「鳳閣寺」が現れます。

 奈良には吉野と熊野を結ぶ「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」という有名な修験道の修行の道がありますが、その開祖といわれる役行者(えんのぎょうじゃ)が1300年以上前に開山したのが「鳳閣寺」の始まりです。

 のちに、一度廃れた修験道を再び復活させた理源大師聖宝(りげんだいししょうぼう)が鳳閣寺を開き、ここを修験の拠点としたそうです。

 そんな修験道のルーツに触れられる鳳閣寺には、絶景を望む展望スペースも備えられています。

 二上山、大和葛城山、金剛山など人気の山を結ぶダイヤモンドトレール(金剛葛城山系の稜線を縦走する自然歩道)や遠くの街を眺めていると、つい、古の修験者たちも同じ景色に心を癒やしていたかもしれないと想像を巡らせてしまいます。

春は桜、秋は紅葉。松尾芭蕉も訪れた山奥の秘境へ

 頭上からは木漏れ日が射し、トレイルは落ち葉で敷き詰められてふかふかのベッドのよう。急な坂もなく、ひたすらゆるやかに続くトレイルを歩くのはとても気持ちがいい。

 鳳閣寺からしばらく歩くと、西行庵と記された道標を発見。階段を降りていくと、広場に出ました。

 広場には、こじんまりした小屋がぽつんと佇んでいます。ここは、もともと武士であった西行がその身分を捨て(じつは武士としての才覚に溢れていたらしい)、法師となって3年間侘住まいしたと伝えられる場所。

 西行を師と仰ぐ松尾芭蕉もここを2度訪れたとされ、ここから少し先に行くと、彼が詠んだ歌の句碑も立っています。

 山一面に広がる桜を一目見ようと多くの人でにぎわう上千本と違い、ここは吉野山のもっとも奥に位置する奥千本エリア。かつて西行法師がひっそりと暮らしたように、静寂に包まれたまさに秘境の地です。

 訪れたのは晩秋の某日。辺りには赤・黄に染まる紅葉が爽やかな葉擦れの音を奏で、陽の光に照らされてきらきらと空を漂い、幻想的な景色を見せてくれます。

2025.02.05(水)
文=平野美紀子
写真=三宅史郎