静かな村の夜空に響く民族音楽とハードロック

高床式のシャレーからなる「スカウ・リゾート」。テラスからはキナバタンガン川を一望

 ジャングルでの野営を無事に終え、次に向かったのは、少し下流にあるスカウという村だ。交通手段の船は、エンジンは着いているが屋根がない。途中のスコールを全身に浴びながら「スカウ・リゾート」というロッジに到着した。

 ずぶ濡れの私を温かく迎えてくれたのは、ここで働いているオランスンガイのスタッフたちだ。2階建てのロッジは派手な設備こそないが、部屋には電気が灯り、きれいなシーツが敷かれたベッドがあり、シャワールームはお湯が出る。なんてありがたいんだ! レストランでは、地元のおかみさんたちが作ってくれるおいしい家庭料理まで食べられる。これほど、人のぬくもりと文明がありがたいと思ったことはない。

 「スカウ・リゾート」でも、メインのアクティビティーは、朝夕のリバークルーズと動物ウォッチング。野生の象の親子に出会うなど、動物たちとの出会いも感動的だったが、それ以上に心に刻まれているのが、河の民オランスンガイとの出会いだ。彼らは河の民らしく、早朝に川で漁をしたり、エビ漁の仕掛けを作る姿もたくましい。リゾートのスタッフも決してサービス業に慣れているわけではないのだが、心からもてなそうというのが伝わってくる。彼らは礼儀正しく、優しくて、素朴で、そしてはにかんだ様子がどこかかわいいのだ。

長く漁で生計を立ててきたオランスンガイの人たち。エビ漁の仕掛けづくりも慣れたもの

 そんな彼らが、私たちにサプライズを用意してくれていた。夕食の後、突然、スタッフ一同による生バンド演奏が始まったのだ。昼間はエビ漁を仕掛けていた男たちが、おそろいの派手な衣装を着て、ギターやベースを弾いている。民族音楽をしばらく奏でていたかと思うと、いつの間にか彼らの子供や奥さんたちまで参加して、楽しそうな踊りの輪ができていた。私たちも、その踊りの輪に引き込まれて、一緒に踊って歌う。そのうち、ハードロックのライブまで始まり、静かな森の中には、賑やかな宴の音がこだましていた。

ホテルのスタッフの生演奏。どこからともなく子供たちも集まり宴は最高潮に。オランスンガイの男性はかっこよくて優しくて音楽が大好き!

 優しいオランスンガイと、熱帯雨林の熱い宴。野生動物が暮らす森と、全身に叩きつけるスコール。川での水浴びと大地のトイレ。思い出すたびに、あのむっとしたジャングルの中にまた行きたいと思ってしまう。次の旅へとかりたてるのは、こんな記憶なのかもしれない。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト www.serizawa.cn

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2014.01.28(火)
text & photographs:Kazumi Serizawa