外国人も受け入れてくれると話題の"ムルカット"

司祭の家にて聖水を浴びるバリニーズ

 バリヒンドゥー教の浄化儀式、ムルカット(MELUKAT)が今、外国人観光客の間で話題になっている。

 ムルカットとは、本来バリヒンドゥー教を崇めるバリニーズたちが、引っ越しをする時、就職をする時、何か嫌なことがあった時など、あらゆる転換の時に日常的に行っている儀式。それぞれ訪れる人の目的のために司祭が聖水を頭からザブザブかけて、マントラを唱えながら心身を清めていくもので、観光客にとっては少々敷居が高い存在だった。

 しかし、最近では、この聖なるムルカットが、日常的な邪気を清めてくれ、マナーさえ守れば外国人も受け入れてくれる儀式であることが口コミで広がり、人気となりはじめている。バリヒンドゥー教のカレンダーで浄化に最も良いとされるお日柄(メラスティやバニュピナロなど)ともなると、有名な司祭の家では、儀式のために深夜2時頃まで行列ができることも。予約もできるので、あらかじめアポイントをとっておくのがベター。

カルマの浄化に必要な聖なる花が浮かべられた聖水

「身体は水によって清められ、心は誠実によって清められ、魂はサイエンスと司祭によって清められ、そして合理的な思想は知恵によって清められる」。ムルカットはバリヒンドゥー教哲学において、人間を神聖に浄化する儀式の一部である。全能の神サンヒャン・ウィディに祝福された聖水が、神とのメディアになって心身を浄化するのだ。

 バリ島はもちろん、世界のどこで生きる人であっても、日常生活のなかで向き合う大混乱や不運、病気から自らを守るために人間の体と魂の浄化は有効だ。過去に起こした行為や、カルマ、また現在の生活で生まれる行為やカルマから引き起こされる混乱をも浄化してくれるのである。儀式に利用される聖水は、人それぞれの状態によって異なるといい、なんともスピリチュアルな体験だ。

強力な浄化が必要とされるときには、海水でムルカットが行われることもある

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text:Yoko Yoshida