●“女性版『ロッキー』”から始まった最新作
――「これで最後」と言いつつ、コロナ禍には初の長編映画『浮気なアステリズム』を制作。地球人の女性と宇宙人の女性が1人の浮気男を巡って共闘し、対決するラブコメディは、初めてクラウドファンディングによって製作されました。
これで最後だからこそ、お金をかけて、みなさんに喜ばれるような分かりやすい映画を作るため、クラウドファンディングをすることを決めました。女優さんのファンの方が参加してくださるので、これまで以上に女優さんをより綺麗に、魅力的に、アップを多く撮ることを心がけましたが、設定自体はいかにも「カブ研」の映画らしく、かなり「うる星やつら」でした(笑)。
21年10月に、シネマ・ロサさんで2週間レイトショー上映されて、クラウドファンディングされた方の評判は良かったんですが、応募した映画祭では入選もしませんでした。その反動もあって、「別にインディーズ映画なんだから、気を遣わなくてもいいじゃん」という当たり前のことに気づき、自分が好きなものをめちゃくちゃやることを決め、まずは15分の短編『喫む女』を撮りました。
――そのある種の開き直りが、監督最新作『野球どアホウ未亡人』に繋がるわけですね?
次回作がシネマ・ロサさんで上映されることは、ほぼほぼ決まっていましたが、堀と「“女性版『ロッキー』”な映画を作れたら、いろんな意味で強いよね?」という話になったんです。そこでテーマソングに合わせた訓練シーンを観ることで、多くの人が高まるスポ根要素と、「カブ研」の映画らしいギャグを絡める方向性が見つかった感じです。
その後、未亡人が草野球の監督に迫られて、そっちの方向にいくのかと思いきや、野球の訓練をさせられるという展開が生まれたのですが、演出面では昭和のスポ根漫画や大映テレビのドラマ、あと鈴木清順監督の『悲愁物語』の過剰さを持ち込みたいと思っていました。そして、タイトルもインパクトがある方がいいと思い、あえてロマンポルノ風なタイトルを、狙った『未亡人野球 快感ホームラン』を経て、このタイトルに決めました。
――劇中、草野球の投手として覚醒していくヒロイン・夏子を演じた森山みつきさんの魅力を教えてください。
これまでの僕の映画の主演女優さんは、目力が強い方が多かったんです。それは最初から意思がハッキリしているキャラだったこともあるんですが、今回の夏子は事件に巻き込まれていくうちに覚醒していくキャラなので、森山さんの脆さというか、どこか状況に流されそうな雰囲気に惹かれました。
もちろん、夏子が覚醒することで、森山さんもだんだん目力が強くなるので、一生懸命表現してくれたと思いますし、それによって彼女のアイドル映画として成立しました。じつはルイス・ブニュエル監督の『欲望のあいまいな対象』みたいに2人の女優さんを起用して、夏子が覚醒したら別の女優さんになるアイデアもあったんです。でも、さすがにそれはお客さんを混乱させるのでやめました(笑)。
2023.11.17(金)
文=くれい響
撮影=細田忠