●転機となった「ミュージックステーション」出演
――楽曲制作時、パチンコ店勤務だった川崎さんが奥様のために書かれた「魔法の絨毯」がそこまで大きな存在になったことを、改めてどのように思われますか?
「魔法の絨毯」だけじゃなくて、この時期に書いた曲は、「世間のみなさんに届けたい」とは思っていなくて……というか思えなかったんですよ。ライブのお客さん3人ですから(笑)。「いちばん近くにいる人に、どう伝えるか?」しか書きようがなかったし、それが正解かどうかも分からなかったんです。でも、それがみなさんに届いたことで、やっていることは間違いでないことを再確認、答え合わせができたんです。僕はタイアップ曲などでみなさんが聴いてくれるようになったミュージシャンではなくて、みんなが聴いてくれたおかげで育ったミュージシャンなので、今後もそのスタンスを変えるつもりはありません。
――まさに、これこそが川崎さんにとって転機となった出来事といえますよね。
本当に映画みたいな出来事だったので、そうとも言えるのですが、その直後に初めて「ミュージックステーション」に呼んでもらえたときも転機かもしれません。「魔法の絨毯」はバズらせようと思って作った曲ではないですし、ライブ慣れもしていたので、本番では音源を使わずにアコギ一本でやったんです。それを見たいろんな方が「こいつ何者だ?」と思ってくれて、いろいろと声がかかるようになったんです。お客さんに伝えるためにライブで歌い続けていて、本当に良かったと思いました。3人しかいなかったけど(笑)。
――このたび公開になった映画『魔女の香水』では、主題歌「オレンジ」とともに、桜井日奈子さん演じる派遣社員だった恵麻を温かく見守る河原役で出演もされています。
先に主題歌のお話をいただいたのですが、映画主題歌は初めてだったので、夢のひとつが叶ったようでした。しかも、書き下ろしという依頼だったので、ワクワクしたのを覚えていますが、「ちなみに演技の方は?」みたいなお話もいただいて、「えっ!」という感じでした。演技することは初めてで、クランクインの前には桜井日奈子さんと台本読みやリハーサルをさせていただきました。
●初の映画主題歌「オレンジ」は撮影現場で制作
――ちなみに、主題歌「オレンジ」を書かれたタイミングは?
「現場や日奈子さんのお芝居を見てから書いた方がいい」と思っていたんです。だから、撮影前までは曲の構成は考えず、撮影に入って3日目ぐらいに、現場にギターを持って行って、日奈子さんや小西真奈美さんらがいらっしゃる控え室で、アカペラスタートで耳に残るキャッチーなメロディを作っていました。
監督さんから「河原から見た恵麻の世界を曲として書いてほしい」というオーダーをいただいていたので、恵麻のひたむきさや爽やかさ、成長する過程みたいなものを曲として起こしました。
――同僚でもある恵麻を絶妙な距離感で見守る河原の役作りについては? 会社員としての経験が役立ったことは?
「自分と全然違うキャラだったら、役作りどうしよう?」と心配していたのですが、監督からは「川崎鷹也さんの感覚そのままで演じてください」と言われたので、ホッとしました(笑)。ですから、役作りはせず、監督と一緒に声の大きさやスピードといった細かい調整だけしていきました。海外とのオンライン・ミーティングのシーンがあるんですが、ミーティングを終わるときの英語の言い回しみたいなものは、僕が提案したものが使われましたね。
――河原の自己紹介シーンは、どこかインパクトも感じます。
河原のどこかお調子者だったり、チャラく見える部分に関しては、僕も「どう演じよう?」と思っていたんですが、監督が「あまり本当の自分を見せたくない河原の性格の裏返し」と言っていたので、河原なりのスキルとして捉えて、酔っぱらってカラオケをしているときの自分を思い出しながら演じました(笑)。河原自身は真面目に頑張っている人を、男女問わずバックアップしたい人だと思うんですよ。
●今後もいろんな役にチャレンジしたい
――完成した作品をご覧になっての感想は?
僕の出演シーンは気恥ずかしかったんですが、物語全体を通して、恵麻の成長が見ることができて嬉しかったですし、エンドロールを観たときに、やっぱり「オレンジ」をアカペラ始まりにして良かったと思いました(笑)。主題歌の世界観と伝えたいメッセージがしっかり伝わっていました。予告編を観るだけでも、僕が伝えたかった爽やかな世界観が伝わっていたので、そのときも「おー!」と思いました。
――ちなみに、奥様も作品をご覧になられました?
作品全体は観ていないんですが、「高校時代から一緒だから、映画に出ているとか変な感じ」と言っていましたね。じつは台本の読み合わせを手伝ってくれていたので、楽曲の世界観は分かっていたと思いますし、出来上がった「オレンジ」を聴いたときには「いいね、この曲」と言ってくれました。
――今後の展望や希望について、ミュージシャンとして、俳優として、両面から教えてください。
音楽はこれからもジャンルにとらわれることなくやり続けたいですし、ステージにも立ち続けたいです。僕自身はライブハウスよりお客さんが立たなくてよくて、座って見やすいホールの方が好きなんです。演技に関しては「音楽にどう還元されるか?」という意味合いもあるので、今後オファーをいただけるのであれば、やっていきたいです。音楽と俳優を両立されている、福山雅治さんへの憧れもありますし、正解が分からないものですし、現場は刺激だらけなので、いろんな役にチャレンジして、その経験を音楽にも還元していきたいですね。
川崎鷹也(かわさき・たかや)
1995年5月16日生まれ。栃木県出身。高校卒業後から本格的に音楽活動を始め、2018年にアルバム「I believe in you」をリリース。その収録曲「魔法の絨毯」が、20年にTikTokで人気となり、トータルの再生回数3億回、YouTube再生回数も8000万回を超える記録を達成。6月14日、3枚目のアルバム「ぬくもり」をリリース。現在、NHK夜ドラ「褒めるひと褒められるひと」にも出演中。
『魔女の香水』
2023年6月16日(金)より公開中
「魔女さん」と呼ばれるミステリアスな女性・弥生(黒木瞳)が営む香水店を手伝うことになった恵麻(桜井日奈子)。弥生から授けられた言葉と香りを通し、自分の未来を切り開くのは自分自身だと気づいた恵麻は、香料会社で働き始め、同僚の河原(川崎鷹也)や営業先で実業家である蓮(平岡祐太)らと出会う。
https://majo-kousui.jp/
Column
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2023.06.23(金)
文=くれい響
写真=平松聖市
ヘアメイク=髙徳洋史(LYON)