●自身との共通点も多い、11年ぶりの主演映画『死体の人』

——『スパイの妻』や『ラーゲリより愛を込めて』などでの軍人役や坊主姿も多いですが、NHK朝ドラ「エール」で演じられた智彦役については?

 「エール」は僕自身、コロナで撮影が中断するということを初めて経験した現場でした。そのとき演じていた智彦は、戦中の軍人としての姿、また敗戦を経て奮闘する一人の人間の姿が描かれていました。脚本がどの段階でどのように変わっていったのかはわかりませんが、僕は戦後日本の復興と明日へ向かってひたむきに生きる智彦の姿に、今を重ね合わせてたくさんのエネルギーをもらいました。そして監督はじめ、スタッフ、作品に関わる人みんなが再び現場を動かそうとする姿に救われた思いをしたことを覚えています。

——ちなみに、21年に真田政信役を演じられた「最愛」のときの反応は?

 サウナに入ってるとき、たまたま中のテレビで「最愛」が放送されてて、多分その流れだとは思うのですが、初めて声を掛けられました。「吉高さんのお兄さんですよね?」って。もちろん、「あ、はい」って答えました、素っ裸でしたが。

——このたび公開される『死体の人』は、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12年)以来の主演作になります。

 台本を読んだときに、草苅(勲)監督のいちばん書きたいモノがユーモラスに、優しい観点で書かれていることに共感を持てました。まだお会いしたことのなかった監督の顔がしっかり見える作品だと思いました。僕が演じた広志は売れない役者で、死体役ばかり演じているわけですが、僕自身もかつて死ぬ役ばかり演じる時期もあったので、そこに対しては違和感なかったです。親しみやすいキャラクターでしたので楽しみながら演じられました。小劇場出身なのも監督と共通していますが、僕の方が遥かにひねくれ者ですね(笑)。

●もっと能動的に、もっとエネルギッシュに

——個人的には新境地だと思いますが、奥野さんにはどのような作品になりましたか?

 今までも広志みたいな役を演じることはあったような気がしますが、確かに映像作品で、このような役は新鮮なのかもしれません。撮影現場では、実際に監督に広志をお芝居してもらうこともありました。この脚本を読んでからというもの、広志=草苅監督だとどうしても思っちゃう節があるもので、僕よりも監督に注目してもらいたいです。

——俳優として今後の目標や展望について教えてください。

 「俳優として、こうなりたい!」という欲や展望みたいなものはなくて……。共演したかった俳優さんたちと共演させてもらっているという思いがあります。他では聞けない面白い話をたくさん聞かせてもらっていますから。楽しむ分には結構申し分なくて、競おうとも思えません(笑)。比較できないと言いますか。ただ、もっと能動的に、もっとエネルギッシュに、その場その場を楽しめるようになりたいとは思います。

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奥野瑛太(おくの・えいた)

1986年2月10日生まれ。北海道出身。日本大学芸術学部映画学科に在学中からインディペンデント映画に出演。09年、『SR サイタマノラッパー』に出演し、シリーズ3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012年)で映画初主演。主な映画出演作に『スパイの妻』(20年)、『すばらしき世界』(20年)、『空白』(21年)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(22年)など。主なドラマ出演作にはNHK連続テレビ小説「エール」(20年)、TBS「最愛」(21年)などがある。

『死体の人』

2023年3月17日(金)より渋谷シネクイントほか、全国順次公開

気づけば死体役ばかりの売れない俳優の広志(奥野瑛太)。小劇場時代の仲間が要領よく活躍する一方、広志は死体役なりのリアルを追求しては撮影現場で疎んじられる始末。デリヘル嬢の加奈(唐田えりか)と運命的な出会いを果たす。明るく振る舞う加奈だったが、彼女もまた自分の人生に問題を抱えていた。そんな中、広志のもとに母が入院するという報せが入る。
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Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2023.03.17(金)
文=くれい響
撮影=平松市聖
スタイリスト=服部昌孝
ヘアメイク=AMANO