「食とアート」で人々をつなぐ

 そんな唐櫃の棚田の近くに、周囲の自然と溶け合うように豊島美術館はあります。

 作品は、アーティスト内藤礼さんと、プリツカー賞に輝く建築家の西沢立衛さんによるアートスペースです。

 靴を脱いで入ると、広さ40×60×最高部4.3メートルの柱ひとつない白い空間。天井の2カ所から光が差し、窓や仕切りのない開口部は周囲の自然とシームレスにつながっています。

 事前に見た公式サイトの「内部空間では、一日を通して『泉』が誕生します」の説明に、「??」。その意味が、訪れて、ようやくわかりました。

 種明かしはしませんが、地下180メートルの水源から汲み上げた地下水、豊島の豊かな湧き水が活かされたアート作品です。

 天井から吹き抜ける風、シェル型構造の建物に反響する鳥の鳴き声、天候や時間で変わる差し込む光。心地よい環境です。来館者の中には横たわって目を閉じて、空間を味わっている人も。

 「アートの島」としての豊島における分岐点となったのは、2010年から3年に1度開催されている瀬戸内国際芸術祭でしょう。

 豊島棚田プロジェクトは、この芸術祭に合わせて設けられたもの。そして島のみんなの食堂「島キッチン」も、そのひとつ。

 「島キッチン」は建築家の安部良さんが設計・再生。「食とアート」で人々をつなぐ出会いの場です。

 東京・丸ノ内ホテルのシェフのアドバイスのもと、地元のおかあさん達が厨房に立ち、豊島や香川県産の食材を使って、もてなします。

 小鉢やメイン、野菜料理、お汁などが並ぶ膳の中には、おかあさん達の庭で育った野菜や、唐櫃の棚田のお米も。豊かな豊島を、豊かな食から感じるランチです。

豊島

●アクセス 香川県の高松港(約35分~)、岡山県の宇野港(約25分~)から、フェリーや旅客船で。直島や小豆島からも定期船が運行。
●おすすめステイ先 ウミトタ
https://umitota.jp/

【取材協力】
豊島観光協会、福武財団、瀬戸内国際芸術祭実行委員会、瀬戸内こえびネットワーク

古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

Column

古関千恵子の世界極楽ビーチ百景

一口でビーチと言っても、タイプはさまざま。この広い世界に同じ風景は一つとして存在しないし、何と言っても地球の7割は海。つまり、その数は無尽蔵ってこと? 今まで津々浦々の海岸を訪れてきたビーチライター・古関千恵子さんが、至福のビーチを厳選してご紹介します!

2022.10.08(土)
文・撮影=古関千恵子