35年間歌い続けるのは可もなく不可もない日常と「君が好き」
さて、KANの「愛は勝つ」以外の歌を追ってみると、その多くは「愛は勝つ」どころか、なかなかの苦戦っぷり。ほぼほぼ主導権を彼女に取られている。
言いたいことの一つも言えないウジウジの極み案件も多し。私が大好きだった三ツ矢サイダーのCM曲「まゆみ」にせよ、「言えずのI LOVE YOU」にせよ、「君が好き胸が痛い」にせよ、伝えたい気持ちや愛は溢れんばかり。だからこそ、それが喉のあたりで渋滞して上手く言えない主人公が見える! ああもうこのもどかしい感覚、身に覚えがありすぎて胸が痛い!
でも、弱っちく見えながら、愛する意思は瓦せんべいの如く固い。トライアンドエラーを繰り返し、好きな人の一挙一動を見て笑ったり泣いたり浮かれたり。
「永遠」「死ぬまで君を離さない」「エキストラ」など、アルバムには必ず心の声をピアノに沁みこませたバラードソングが入っている。そこにあるのは、ひたすら
「君が好き」。
素直な気持ちを伝えるのって難しい。でも、伝わるまで、君が好き、大好きだ、と歌い続ける。届けるチャンスがない恋は、届かなくても心で言い続ける。
今年35周年、御年59才、もうすぐ還暦! だが、多分彼はいくつになろうが、永遠に彼女のカレーライスや膝枕に浮かれたり落ち込んだりしながら、君が好きと伝えていく気がする。
可もなく不可もない日常にちりばめられた幸せ。KANの音楽は、それをひょっこりと思い出させてくれる。そして、こう言ってふわっと背中を撫でてくれる。
誰かにとどく明日がきっとある。
Column
田中稲の勝手に再ブーム
80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。
2022.06.17(金)
文=田中 稲