●原作があってもなくても、オリジナル

――14年には東京国際映画祭で『愛の小さな歴史』が上映され、「日本のインディーズ映画の新鮮なる才能」とも評されますが、ご自身の転機となった作品は?

 15年の東京国際映画祭で上映された『走れ、絶望に追いつかれない速さで』です。あの作品では、先の僕に映画を教えてくれた友人の死を描いたのですが、精神的にも肉体的にも、とにかく撮影がきつかったんですよ。また、学生時代から一緒に映画を撮ってきたメンバーも就職するなど、彼らとの最後の作品として思い出に残っています。

――その後、17年『四月の永い夢』が、モスクワ国際映画祭でメインコンペティション部門に正式出品。19年の『わたしは光をにぎっている』も、モスクワ国際映画祭に特別招待されます。今度は長編作品で、海外に評価されたことについては?

 いつも思っていることですが、人の評価は分からないです(笑)。自分がいいと思っていても、まったく評価されないこともありますから。だから、あまり考えないようにしています。ただ、評価をしていただけることで、世界が広がっていく感じがしました。監督は役者との出会いも大きいですが、プロデューサーとの出会いも大きいんです。それが後々に繋がっている気がします。

――19年の『静かな雨』(宮下奈都原作)と、最新作(22年)となる『やがて海へと届く』(彩瀬まる原作)以外は、すべてオリジナル作品というのは、とても珍しいように感じます。

 たまたま運が良かったのか、それとも自己主張が強かったのか(笑)。ただ、『静かな雨』と『やがて海へと届く』は、もちろん原作の精神を大事にしていますが、僕はほぼオリジナルという気持ちで作っています。映画には文学とは異なる固有の文体がありますので、自分の中で原作モノであってもなくても、オリジナルと思えるものを作っていくことが自分の基本的な姿勢です。

~次回は最新監督作『やがて海へと届く』についても語っていただきます~

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中川龍太郎(なかがわ・りゅうたろう)

1990年1月29日生まれ。神奈川県出身。詩人として活動を始め、慶應義塾大学文学部に進学後、独学で映画制作を開始。短編時代から海外で高い評価を得ており、フランスの映画誌カイエ・デュ・シネマから「包み隠さず感情に飛び込む映画」と絶賛される。2018年の『四月の永い夢』はモスクワ国際映画祭において、国際映画批評家連盟賞・ロシア映画批評家連盟特別表彰という、邦画史上初のダブル受賞を果たした。

映画『やがて海へと届く』

引っ込み思案な性格な真奈(岸井ゆきの)は、自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会う。2人は親友になるも、すみれは一人旅に出たまま突然姿を消してしまう。それから5年、真奈はすみれのかつての恋人・遠野(杉野遥亮)から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。

https://bitters.co.jp/yagate/
2022年4月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

Column

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2022.03.25(金)
文=くれい響
写真=平松市聖