「カナザワ映画祭」期待の新人監督スカラシップ第1回作品『きみは愛せ』が、現在公開中の葉名恒星監督。愛を求めてあがく、若者たちの絶望と希望をオール金沢ロケで描いた彼が、映画監督を目指すきっかけなどについて語ります。

» 葉名恒星監督の写真を全て見る


●バイト仲間との再会が大きな転機に

――幼い頃の夢は?

 親が大ファンだったこともあって、小学3年生ぐらいまでは自分はSMAPになるものだと思っていました(笑)。物心つく前から、ライブDVDを見たりして、踊っていましたし。その後は、スポーツ・ジャーナリストや理学療法士に憧れたりもしましたが、中学から高校にかけて、バンドをやっていたこともあり、何かを自分で表現したい気持ちが強まっていきました。

――その後、上京して東京学芸大学にて、表現コミュニケーションを専攻されます。

 映画、演劇、ダンス、ミュージカルなど、一般芸術を幅広く学んでいたのですが、周りがいろんな道に進んでいくなか、自分は映画館(新宿バルト9)でアルバイトしながら、「普通に就職するんだろうな」と思っていました。実際、卒業後は人材派遣会社に就職しましたし。

――その後、映画学校ニューシネマワークショップで映画を学ぶきっかけは?

 バルト9のバイトで知り合っていた、俳優の細川 岳や佐藤快磨監督たちと再会したのがきっかけです。その頃の僕は会社を辞めて、カノジョにも振られたこともあり、傷心して、無気力になっていました。そんなときだったので、ずっと自主映画を撮っていた先輩たちに影響されたことが大きいです。

 あと、監督が見つめるモニターの中の世界観を、みんなが切磋琢磨して作り上げていくことに惹かれていったのだと思います。2016年の一年は、自分にとって大きな転機だったといえます。

●前カノの存在を消化したかった初の長編

――そして、17年に12分の短編『どうしようもないほど、分かってんねん。』を撮り、イベント「Movies-high2018」でも上映。主演はバルト9のバイト仲間で、おととし公開の『佐々木、イン、マイマイン』で注目された細川 岳さんです。

 映画学校の前期での必修で、僕にとっても初めての演出作品だったのですが、彼は人間的にも信頼できるし、当時はほかの俳優さんも知らないし、お願いの仕方もよく分からなかったですから。だから、彼ありきで、彼に寄せて脚本を書きました。どこまでも自分を役に落とし込むタフな俳優で、分からないことはハッキリ口に出して言ってくれる。

 その後も、彼と一緒に組んでいますが、1作品につき、何度も僕の想像を超える瞬間があるんです。それが彼の魅力なんだと思いますし、やっぱりその魅力にずっと惹かれ続けているのだと思います。

――18年、ふたたび細川さんを主演に起用し、『愛うつつ』を撮られます。

 映画学校の後期は、脚本のコンペで選ばれた2人しか撮ることができないんですが、僕が書いた脚本は最終審査で落とされてしまったんです。それがどこか腑に落ちなくて、自分で撮らない選択肢はなかったんです。それでコンペ用に書いた30分用のシナリオを長編に膨らませ、映画学校卒業から4カ月後にはクランクインしていました。

――ちなみに、監督自らの経験を基にした「愛とセックスの形」をめぐる物語でした。

 付き合っている女性に対して、愛しているからこそ抱けない主人公。それは僕も同じだったんです。そんな前のカノジョのことをずっと引きずっていたので、今思うと、それをなんとか作品として消化したいという気持ちが大きかったんですかね。だから、この作品が、その後にいろんなところで評価されて、最終的に劇場公開までされるなんてことは想像がつかなかったです。

2022.02.11(金)
文=くれい 響
写真=末永裕樹