●オール金沢ロケによる、新たな愛の物語

――実際、「カナザワ映画祭 2019」では「期待の新人監督」にノミネートされるほか、「第 20 回 TAMA NEW WAVE」コンペティション部門にもノミネート。そして、完成から3年経った21年には劇場公開されました。

 「カナザワ映画祭」の主催の方からは、恋愛がテーマながら見たことのない切り口で描いていることの面白さ、みたいなところを評価してもらいました。そういう声をいただいたことで、映画を撮っているときに感じなかった監督ならではの映画体験というか、充実感を得ることができました。

――19年、「カナザワ映画祭」と金沢市竪町商店街が発足させた「期待の新人監督スカラシップ」第1回作品として、『きみは愛せ』の製作が決定します。

 ちょうど、その頃はラインプロデューサーとして、『佐々木、イン、マイマイン』の製作に関わっていたのですが、「自分も映画を撮りたい」という気持ちになっていたんです。そんなとき、「スカラシップ」の企画コンペ話を聞き、「これは応募しないわけにはいかない!」という気持ちになり、書き溜めていたものを集めて、企画書を4日程度で書きました。『愛うつつ』を評価してくださった映画祭なので、同じようなテイストで勝負しようとも思いましたね。

――タイトルや劇中の「愛だな、愛」というストレートなセリフも印象的な本作ですが、前作のテーマをさらに深掘りした群像劇になっています。

 『愛うつつ』を撮った後ぐらいから、友人の結婚式に参列することが多くなって、ふと思ったんです。「式ではみんなの前で愛を誓いながらも、不倫や浮気に走る気持ちは何なんだろう?」と。そんな自分の違和感や疑問みたいなものも入れ込みましたし、完全なエンタメではないなか、映画を表すキャッチーな推進力みたいなものも必要なのかなとも思いました。

 「愛だな、愛」は主人公2人の共通言語なんですが、臭いかもしれないけれど、臭いことも言うキャラクターとして描ければ、映画からはみ出すこともないだろうと信じて入れ込みました。

●ずっと撮り続けていきたい

――竪町など、金沢オールロケで感じられたことは?

 東京と違って、金沢は駅をちょっと離れると、建物が低かったりするので、どこか開放的に見えるんです。でも、人が使う小路は狭いといったギャップみたいなところに、金沢ならではの引力みたいなものを感じました。ロケ地になったおでん屋さんや雀荘など、みなさんに温かくしていただき、とても思い出深いです。

――今後は東京に続き、金沢・名古屋と全国に公開が広がっていきます。映画監督として、どんな作品となりましたか?

 観てくださる方の反応への期待と怖さがありつつ、今まで漠然としていた“映画を撮る”という行為が、ほんの少し明確に見えてきました。そして『愛うつつ』のときは、「これで映画を撮るのは最後かもしれない」とも思っていたんですが、『きみは愛せ』を撮ったことで、まだできてないことが見えたり、「次はこういうチャレンジをしてみたい」というものが具体的に見え始めました。つまり、映画を撮り続けていきたいという気持ちが生まれました。

――将来の展望や目標、また憧れの監督も教えてください。

 映画監督として、ずっと撮り続けていきたいのがいちばんですが、「こういうことは良くない」と言う人が正しいと思って見ている世界や言葉の裏を突くような映画を撮りたいです。今、地元の広島を舞台にした被爆三世の脚本を書いているんですが、もしかしたら自分にしか描けない可能性のある映画も撮ってみたいです。

 そして、例えばポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』のように、映画好きでなくても楽しめるエンタメ性と社会性を兼ね備えた作品を指針にしてやっていきたいです。

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葉名恒星(はな・こうせい)

1992年8月11日生まれ。広島県出身。東京学芸大学表現コミュニケーション専攻を卒業後、ニューシネマワークショップを受講。初めての長編映画『愛うつつ』は、「カナザワ映画祭2019」期待の新人監督などに選出。現在はフリーランスとして、CMや企業映像のディレクターを勤めながら、映画制作を行っている。

映画『きみは愛せ』

リサイクルショップで働く無欲な慎一(海上学彦)と、スナックで働く彼の片思い相手の凛(兎丸愛美)。そして、雀荘で働く凛の兄で、慎一の同居人・朋希(細川 岳)。ある出来事をきっかけに、傷つくことを恐れて生きてきた3人の生活が変わり始める。
©2020「きみは愛せ」製作委員会

https://www.eiganokai.com/kimiaise/
アップリンク吉祥寺にて公開中。2022年2月12日(土)より金沢シネモンドなど、全国順次公開。

Column

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2022.02.11(金)
文=くれい 響
写真=末永裕樹