30歳を迎える今、芽の出なかった頃を振り返って。
初主演映画『おじいちゃん、死んじゃったって』から約5年。岸井ゆきのの存在感は日々、加速度的に増している。直近では高橋一生と共演したNHKドラマ『恋せぬふたり』が大きな話題となり、『空白』『ヒメアノール』など熱狂的なファンを持つ𠮷田恵輔監督の最新作『神は見返りを求める』への出演も発表された。
日本を代表する俳優のひとりとして、今後ますます成長していくことを期待されていく岸井。彼女が主演を務めた最新映画『やがて海へと届く』が、2022年4月1日に劇場公開を迎える。彼女が本作で演じたのは、5年前に失踪した親友・すみれ(浜辺美波)を想い続ける女性・真奈。すみれの元恋人・遠野(杉野遥亮)から受け取ったビデオカメラに残された映像を観た彼女は、すみれが最後に旅した場所へと向かう。
様々な余白を残し、人々が喪失と向き合うさまをミステリー仕立てで描いた本作。『四月の永い夢』や『わたしは光をにぎっている』など、繊細で詩的な映像美で知られる中川龍太郎監督が作り上げた世界観の中で“呼吸”をした岸井。30歳へと歩みを進める彼女に、今までとこれからを聞いた。
――2月11日にお誕生日を迎え、30歳に。今のお気持ちはいかがですか?
元々年齢をあまり気にするほうではないのですが、今回は周りに「次30歳じゃん!」とすごく言われて「気にした方がいいのか?」となっています(笑)。年上の皆さんはみんな「30代が楽しい」と言うけど、「そうなのか……今も十分楽しいけどな」って。
――充実の20代だったのですね。初主演映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』、『愛がなんだ』等々にご出演されてきましたが、改めて振り返るとどんな10年だったでしょう?
20代の前半は本当に毎日バイト漬けでしたね。でも私はすごくアルバイトが好きで、一生懸命やってバイトリーダーになったりして(笑)。最初に東京に出てきてバイトしたのがフレンチだったのですが、その当時シェフのコミ(見習い)だった人たちが、いまや「え! 今はそんなところで働いてるの!?」と出世しているんです。
でもそれは、当時から一生懸命やっていたからなんですよね。皿洗いのバイトだった私も感化されて、お皿や調理器具を洗う以外にも「何かできることないか」とトリュフを刻んだりソラマメを剥いたり、ハーブを乗せたり……本当に色々させてもらいました。当時のバイト先の人たちと今でもつながりがあるのは、嬉しいですね。
役者業は、20代前半なんてもうセリフもないし、ドラマに出ても「本当に出てたの?」と思われてしまうような小さな役ばかりでした。でも、全部一生懸命やっていたんです。いまの「一生懸命」とは度合いがちょっと違うかもしれないけど、とにかく一生懸命やった自負があるから「ああすればよかった、こうすればよかった」というのはあまりなくて、それはすごく幸いなことだと思います。
2022.03.30(水)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘア=YUUK
メイク=Yumi Endo
スタイリスト=森上摂子