アロマンティック・アセクシュアル(アロマアセク)の男女が同居することで物語が動き出したNHKのよるドラマ「恋せぬふたり」。「アロマンティック・アセクシュアル」という言葉をはじめて知ったという人もまだ多いのではないでしょうか。
ドラマの主人公のセクシュアリティがアロマアセクで、かつそれがメインテーマとなるドラマはこれまでなかったように思います。そんなチャレンジングなドラマを入り口に、「テレビっ子」であるライター綿貫大介さんが、恋愛や結婚、そして家族について考察します。
ドラマが教える「アロマンティック・アセクシュアル」
ドラマの主人公は、スーパーの営業戦略課で働く、咲子(岸井ゆきの)。ある日、会社の後輩が企画した“恋する肉じゃが”キャンペーン商品を見にスーパーへ訪れた際、店員の高橋(高橋一生)から「恋しない人間もいる」と言われ、ハッとします。咲子はこれまで“恋愛”を前提としたコミュニケーションになじめずに日々暮らしていたのです。
その後、ネットのブログで「アロマンティック・アセクシュアル」という言葉と出会い、自分がそうなのではないかと自覚する咲子。実はそのブログを書いたのが高橋だと知り、興味津々の咲子は高橋にセクシュアリティのことを根掘り葉掘り質問していきます。
さらに咲子が「恋愛感情抜きの家族になりませんか?」と提案することで、ふたりはお試しの同居生活をスタート。同居する課程で見えてくるさまざまな問題、他者との関わり方、そして浮き彫りになる“世間の常識”などが描かれているドラマです。
では、「アロマンティック・アセクシュアル」について、改めて説明しておきます。アロマンティックとは、恋愛的指向のひとつで、他者に恋愛感情を抱かないこと。アセクシュアルとは、性的指向の一つで、他者に性的に惹かれないこと(または、他者に性的な魅力は感じるが、性的な行為をしたいとは思わないこと)。どちらの面でも他者に惹かれない人を、アロマンティック・アセクシャルと呼びます。このドラマのふたりは「アロマンティックでアセクシャル」と説明されているので、他者に対して恋愛感情も性的感情も抱かないという役柄です。
混合しやすいのですが、アロマンティックの人も、アセクシュアルの人も、アロマンティック・アセクシャルの人もいます。特定の人に性的に惹かれても恋愛感情があるとは限らないし、恋愛感情を抱いたとしても性的な魅力までは感じているわけではないこともある。そもそも何が性的で何が恋愛的なのか、区別ができないという人もいて線引は難しいもの。当事者個人がどう自認するかにもよるのですが、それだけセクシュアリティとは多様なものなのです。
2022.03.13(日)
文=綿貫大介