恋をしなくても、胸がときめくことはたくさんある
2011年、BEAMSが35周年記念のキャンペーンで「恋をしましょう」というキャッチコピーを打ち出しました。
みなさん恋をしましょう。誰かを好きになりましょう。そして自分を好きになりましょう。みなさん恋をしましょう。それは世界を新しくしますから。知らなかった歌を好きになりますから。ゴハンが美味しくなったりしますから。深呼吸の意味を変えたりしますから。それは嘘の悲しさを教えてくれたりしますから。たとえそれが終わっても、きっと何かを残してくれたりしますから。さあ、年齢を超えましょう。性別を超えましょう。経験を超えましょう。みなさん恋をしましょう。地球は愛が救ってくれますから。恋をしましょう。
10年前の消費を促すキャッチコピーに「恋」をもってくるのは真っ当だと思います。デートに着ていく服、コスメ、一緒に行くレストラン、アミューズメントパーク……さまざまなところにお金が落ちますから。でも今は「恋」よりも「推し」という単語を絡めた方が消費が動く時代。2022年なら上のコピーも「恋」を「推し活」と言い換えられるように思います。
現代のときめく対象は決して恋愛関係を築きたい相手だけではなく、アイドルなどの著名人や、その他応援したいさまざまな人にまでにおよびます。それだけでなく、アニメやマンガ、さらにはゲーム、鉄道、歴史、食べ物など、人に薦めたいほど好きなものすべてが「推し」の対象です。恋愛が尊いことなのではなく、推し(何かを好きになるということ)が尊いのです。
咲子もサニーサイドアップ(略してサニサイ。2019年に放送されたよるドラ「だから私は推しました」から生まれたアイドルグループ)推しという設定。「好き」の概念が広がっている今なら、みんなが「いろんな好きの形がある」「恋愛が当たり前の世の中、おかしくないか?」という気づきを得られやすいと思います。
美男美女が登場し、さまざまなトラブルに巻き込まれながらも、最終的には結ばれる王道の恋愛ドラマももちろんいいものです。ラブストーリーに夢を見ることも、ドキドキすることも、間違ってはいません。ただ、「恋愛」がない物語を生きてもいいし、「恋愛」は当たり前ではないと気づくことも大切。
「みんなが恋愛はするもの」という強固な前提を外し、それぞれの生き方やセクシュアリティを尊重するという考え方で、どんな恋愛・友愛の形も受け入れる姿勢でいたいものです。これまで“ないもの”にされてきた人々の存在が、物語においても可視化されるのは意義のあること。これから咲子と高橋がどんな関係に着地するのか、ドラマもまだまだ見逃せません。
よるドラ「恋せぬふたり」
毎週月曜 総合夜22:45~23:15放送中
出演:岸井ゆきの、高橋一生ほか
https://www.nhk.jp/p/ts/VWNP71QQPV
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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Twitter @watanukinow
2022.03.13(日)
文=綿貫大介