北欧渡航歴30年以上で、元デンマーク親善大使の肩書を持つ料理家・インテリアデザイナーの行正り香さん。長年、北欧の人々と親交を深めてきた行正さんが実感した、北欧の人々の幸福度が高い理由とは?

 『照明と家具から始める北欧インテリア』より、一部を抜粋してお届けします。

» はじめから読む:元デンマーク親善大使・行正り香が語る、北欧家具の魅力と“心地よい”空間づくりのヒント「北欧の巨匠が描くデザインは…」


“ヒュッゲする”とは――この時間を、ここで大切な人と

 長女がオーフスの友人の家に遊びに行ったときのことです。リビングで息子さんがゲームに熱中していたら、お母さんが「いいかげんにヒュッゲしなさい!」と叱ったのだとか。その話を聞いて私は思わず笑ってしまいました。「スマホをいじっている=サボっているから勉強しなさい」ではなく、「何か価値のある“のんびり”をしなさい」という叱り方が、まさに北欧らしいと感じたのです。

 では、“ヒュッゲする”とはいったい何か。娘に尋ねると、「編み物とか刺繍とか……本を読む、一緒に料理するのもヒュッゲだよ」と。つまり、心が落ち着き、くつろげる状態。

 今、この時間を大切に味わっている感覚、だそうです。

 スマホ時代の私たちは、気づけば忙しくしてしまいます。ひとつ屋根の下に暮らしていても、それぞれ別の画面の世界に旅立っています。同じ部屋にいるのに、心は別々。これはちょっともったいない。

 北欧の人、日本の人。それぞれ文化が違えば、何が心地よいかも違います。でも、“ある時間をゆっくり味わう”ことは、誰だって好きなはずです。

 日本でも、古くから同じような心のあり方が息づいています。たとえば、季節ごとのしつらえーー七夕の笹、十五夜のお団子、お正月のしめ飾り、庭先に咲く野の花を花瓶に活けること。そんな季節の移り変わりを楽しむありようは、日本版のヒュッゲかな、と思います。

 「今、この時間を、この季節を、ここで大切な人と」ーーそんな気持ちは、北欧のヒュッゲと、日本のささやかな楽しみを慈しむ文化が、重なる瞬間です。

次のページ お菓子は空間をあたためるインテリア――ひと手間かければ十分