すみれを想う気持ちを“自分の中だけで抱える”こと
――岸井さんが今回演じられた真奈は、言葉では説明しきれない要素、内面にくすぶる感情をいかに“におわす”かが重要な役どころだったのではないかと感じました。どうやって役の内面を作っていったのでしょうか。
やっぱり大きいのはすみれ(浜辺美波)がいなくなってしまった喪失感でした。おっしゃる通り今回はセリフが少ないのですが、一言で喪失感といっても、喪失感や空っぽな気持ちってなかなか言語化できないものじゃないですか。真奈は自分の中で渦巻いている感情を誰かに話さない感覚があったので、中川龍太郎監督にも「こういう気持ちですよね?」という確認はしないでおこうと思っていました。
いまどこにすみれがいるのか、自分はすみれのどの部分が一番好きなのか、そもそもどれくらいすみれのことを知っていたのか――。ずっと堂々巡りで、忘れたくないし見つけに行きたいし、確かめたいと思っている、そういった色々な感情を言葉にしないまま「貼り付けている」感覚です。すみれがいないシーンもすみれのことを考えている、そういった状況をカメラでとらえていただきました。
――いなくなってしまったすみれの存在を常に想い続けて現場にいる状態ですね。
はい。ただ、忘れちゃうときもあるんですよ。それで、そのことに気づくんです。「あれ、いま私すみれのこと考えてなかった」って。そして、そういう自分が許せなくなる。そういった心境が、遠野くん(杉野遥亮)やすみれのお母さん(鶴田真由)が前に進もうとすることが許せない状態にもつながっていきました。
私自身、今回の撮影で浜辺美波ちゃんと過ごした瞬間を思い出せるだけ思い出してみるんだけど、一人で頑張らないといけないシーンなどでうっかり忘れてしまうことがあったんです。その感覚が真奈にすごく通じるところがありました。でもそれを中川監督に伝えたら、手放してしまう気がして。だから、自分の中だけで抱える状況を自分で作っていきました。
浜辺美波ちゃんとの共演シーンはふたりで電車で旅行に行くところから始まったので、そこを何度も思い出して。撮影が後だったらなかなか難しかったので、その順番で撮影を組んでくださってすごくありがたかったです。
――ある種、役とご自身の同化ともいえますね。岸井さんが演じるうえで大切にしていることでもあるのでしょうか。
そうですね。出来れば演じないでいたいと思っています。ただそこに存在していられたら一番ですよね。
映画はやっぱりチームで作っていくもので、カメラマンさんが表情や動きをとらえるためにいて下さって、監督がディレクションをしてくださるから成立する。だからこそ、自分が矢印の方向を決めないようにしてそこにいたいと思うんです。ただどうしても自分がやっていることもあって、自分の気持ちで「これをやろうとしちゃう」瞬間がある。ただ、それは結構な確率でバレますね(笑)。
2022.03.30(水)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘア=YUUK
メイク=Yumi Endo
スタイリスト=森上摂子