祈祷の内容によって使い分けられた様々な曼荼羅
サンスクリット語のmanda(中心、心髄)+la(所有)を音写した曼荼羅は、「心髄=(悟り)を有するもの」、即ち「聖なる場」「仏の世界」を意味する。これを目に見えるものとして表象したのが、美術の領域で扱われる曼荼羅だ。今回出展されるものの中では、《金剛界八十一尊曼荼羅》が、密教の根本原理を図解したいわゆる「両界曼荼羅」の片割れとして知られる。これは左右、男女、陰陽のように、対極的でありながら、同時に相補的でもある──という存在の原理を、金剛界と胎蔵界の二幅ワンセットで表現した曼荼羅で、密教美術の中でもっとも重要なアイテムといっていい。《金剛界八十一尊曼荼羅》は、金剛(=ダイヤモンド)の名の通り、いかなる力によっても破壊されない大日如来の智慧を意味し、結晶のような正方形と、円の図形で幾何学的に構成され、煩悩−悟りに至る双方向のプロセスを図示している。
一方それぞれの修法に合わせて個別の仏の世界を描く曼荼羅もあり、たとえば《尊勝曼荼羅》なら滅罪、延命、出産や祈雨を願う祈祷に、《愛染曼荼羅》なら人々の和合を願う敬愛法に用いられた。
江戸時代の若冲にも通じる彩色の技法
また他の数多の諸仏諸菩薩すべてがそこから生じたとされる、密教における絶対的な中心尊・大日如来の現存最古(12世紀)の独尊画像である《大日如来像》は修復を終えたばかりで、その豊麗な彩色をつぶさに見て取ることができる。
薄塗りでも鮮やかに見える色彩は、画布の裏から彩色する「裏彩色」と呼ばれる技法の効果によるものだが、この平安の仏画に特徴的な技術を採り入れたのが、18世紀京都の人気絵師、伊藤若冲だ。まったく違う時代、違うジャンルの作品が、「カラーリング」の1点でつながるのも、面白い部分だろう。
曼荼羅という形で表現された、言葉で説明しがたい密教の真理を、現代の美術ファンがひと目見て理解する、というわけにはいかない。でもその形の端正さや色彩の華麗さの向こう側に、超越的な存在や力を切実に求めた人々の願いや祈りを感じ取るのは難しくないはずだ。
曼荼羅展――宇宙は神仏で充満する!
会場 根津美術館
URL www.nezu-muse.or.jp/
会期 2013年7月27日~9月1日
休館日 月曜日
開館時間 10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
料金 一般1000円
問い合わせ先 03-3400-2536(代表)
Column
橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」
古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2013.06.22(土)