BL好きには避けて通れない、お約束の萌え絵画「聖セバスチャン」のご紹介でスタートした新連載。第2回は、ホントはヒゲ面のおっさんだったはずの「聖セバスチャン」が、“苦悶する美青年”として描かれるようになったのはなぜなのか……? 欧米のBL事情に詳しい美術研究家・岩渕潤子さんが、徹底分析します!

ヒゲ面からすべすべお肌に……

おっさんの面影が微妙に残るマンテーニャ画「聖セバスティアヌスの殉教」1480年 ルーヴル美術館所蔵

前回は、ヒゲ面のおっさん(屈強な壮年のローマの軍人)だったセバスチャンが、時代が下るのと共に紅顔の美青年へと変容し、衣服をはぎとられ、あられもない姿態で木に縛りつけられ、大きな瞳で天を振り仰ぐ構図に変わっていった……というところで話を終えた。今回は「なぜそうなったのか?」について考えてみたい。

 正直なところを言うと、これは、もう、発注者の趣味の反映というか、発注者の意を汲んで画家がいっしょうけんめいに作品を作るうちにこうなった……としか考えようがない。作品制作のためには大枚の金額が支払われているのだから、発注者の嫌がるような作品を画家が描くわけがないのだから。

 次に、具体的にいつからセバスチャンが美青年として描かれるようになったのかだが、まずヒゲが無くなって、衣服をはぎ取られて木や杭に縛り付けられた構図が見られるようになる。それから顔が女性的な柔らかい線で描かれるようになって、美しく変化を遂げ、最終的に身体をゆがめて天を仰ぐポーズとなった。有名アーティストによるその完成形の早いものとしては、15世紀半ばにジョヴァンニ・ベッリーニがヴェネツィアのサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ教会のために描いたものを挙げることができる。天を仰ぐポーズについては、15世紀後半から16世紀初頭にかけて活躍したピエトロ・ペルジーノの作品が複数あるので、典型的な構図は15世紀後半には完成していたようだ。

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2013.06.15(土)