タピスリー《貴婦人と一角獣「触覚」》:1500年頃 羊毛、絹 フランス国立クリュニー中世美術館蔵 (C) RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF–DNPartcom
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 時に音楽を奏で、時に花冠を編む美しい貴婦人には侍女が寄り添い、紋章をあしらった旗や幟を掲げたライオンと一角獣がつき従う。周囲には可憐な花々が咲き乱れ、兎や羊、ヒョウ、ハヤブサなどの動物たちがその周囲を取り囲む。巨大な6連の画面によって繰り広げられる幻想的な情景に「……これって絵じゃないの?」。知らずに展覧会を見に来たらしい観客がこう呟かずにはいられないほど、連作タピスリーは油彩画に劣らぬ表現力をもって観る者の目を驚かす。それが「タピスリーの《モナ・リザ》」と讃えられるフランスの至宝、《貴婦人と一角獣》だ。

世界に広がったタピスリーの技法

タピスリー《貴婦人と一角獣「味覚」》:1500年頃 羊毛、絹 フランス国立クリュニー中世美術館蔵 (C) RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF–DNPartcom
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 タピスリー(英語ではタペストリー)は、経糸を強く張ったところへ、絵緯糸を文様の色に従って縫い綴るように織り込んでいく織物で、手法自体は紀元前の西アジアで既に見られ、フランスのゴブラン織、京都西陣の綴錦など、壁掛け、衝立、緞帳といった室内装飾のために世界各地で作られてきた。

ルネサンス美術と同時代が最盛期

タピスリー《貴婦人と一角獣「嗅覚」》:1500年頃 羊毛、絹 フランス国立クリュニー中世美術館蔵 (C) RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF–DNPartcom
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 ヨーロッパでのタピスリー制作がもっとも盛んになる14世紀後半~16世紀初頭は、ちょうど14世紀のイタリアに始まり、以後15~16世紀にかけてヨーロッパ各地に波及したルネサンス美術とも時期を同じくしている。《貴婦人と一角獣》は、様式としては中世末期のゴシック美術に分類され、「三大タピスリー」の筆頭に数えられる作品だが、日本ではこれまで、ルネサンス美術のようには知られてこなかった。ミケランジェロ、ベラスケス、レンブラント、フェルメールなど、作家の個性が名前と共に認識される近世以降の芸術とは異なる社会や宗教のあり方が、現代の日本人には馴染みにくいからだろうか。

タピスリー《貴婦人と一角獣「聴覚」》:1500年頃 羊毛、絹 フランス国立クリュニー中世美術館蔵 (C) RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF–DNPartcom
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2013.05.25(土)