深窓の宮廷恋愛で一角獣が意味するものは?
そこから先がオトナの美術史になるわけだが、この一角獣神話が後にキリスト教的に解釈された結果、一角獣(=キリスト)が神としての超越性を捨て、人間キリストとして聖母マリア(=乙女、貴婦人)の胎内に宿る「受肉」の主題と結びつけられた。さらに中世に入るとこれを宮廷恋愛のモチーフに読み替え、一角獣が男性、乙女が思いを寄せられる女性であり、乙女の愛によってのみ男性は捕らえられ、そのために死に至ることになっても本望、という、愛する女性に対しての熱烈なメッセージを潜ませた図像が作られて行く。そのような目で見るならば、6番目のタピスリーの青い天幕に掲げられた《我が唯一の望み》という言葉が誰の、どのような希望を意味するかも、明白だろう。
連作を展示した広間の周囲には、《貴婦人と一角獣》の中に表されたアクセサリーや小道具の類似作品、同時代のタピスリーなど、いわばメイン作品を解読するための小部屋が放射状に配置され、タピスリーの高精細画像とともに紹介されている。作品に込められた本当の意図は注文主に聞いてみないとわからないが、馴染みの薄い、しかし深く豊かな中世世界へ分け入るための、絶好の入り口となる展覧会だ。
フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
貴婦人と一角獣展
URL www.lady-unicorn.jp
会場 国立新美術館 企画展示室 2E
会期 2013年4月24日~7月15日
休館日 火曜日
開館時間 10:00~18:00、金曜日は20:00まで(入場は閉館30分前まで)。
料金 一般1500円
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)
巡回 2013年7月27日~10月20日まで、大阪・国立国際美術館で開催。
Column
橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」
古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2013.05.25(土)