浴衣で楽しむコンサートは
グラスワインを片手に

 「界 松本」がある長野県松本市は、音楽の街としても知られている。夏の恒例となっている「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」を始め、関連イベントは数え切れないほど。そんな「楽都」と呼ばれる松本のカルチャーは、宿にいながらにしてしっかり堪能できる。

 そのひとつが、毎晩ロビーで開催されるコンサートだ。ジャズやクラシックを中心にしつつも、なじみのある選曲が多く、肩肘はらずに楽しむことができる。ドレスアップせず、湯上がりに浴衣姿で生演奏を聞けるなんて、なかなかないシチュエーションだ。

 コンサート開催中はワインバーもオープンしている。セレクトはもちろん、信州のワインが中心。ドーム型の天井から降り注ぐような音を聞きながら飲むワインは、格別に味わい深い。

 音楽好きだけでなく、アート好きにとっても、館内は見どころが多い。

 たとえば、エントランスロビーの天井を柔らかに飾るのは、和紙に貝殻をすりつぶした顔料をクシ引きで一面に塗った「雲母刷り」。

 ダイナミックかつ繊細な絵柄で廊下や襖を彩るのは、大きな水槽に水を張り、その表面にマーブル調に浮かび上がった多色彩の色調を流し込んで作った模様を紙に写し取る「江戸墨流し」だ。

 料理茶屋の入り口にある引き戸は、万華鏡のように繊細な「組子障子」。芸術に詳しくなくても、その繊細さに引き込まれてしまう。

 館内のアートをひとしきり堪能し、湯上がりを静かに過ごしたくなったら、トラベルライブラリーへ。

 温泉学から旅のエッセイ、ワイン、山岳ガイドまで、信州の旅にまつわるさまざまな本が用意されている。コーヒーやハーブティーも自由に飲めるここは、気ままに過ごせる隠れ家のなかの隠れ家のような場所だ。

2018.10.27(土)
文=芹澤和美
撮影=佐藤 亘