百恵カバー曲の重さはどこからくるのか

 MCは終始和やかで、気づかいの人であることがにじみ出ていた。父君・三浦友和さんがインスタを楽しんでいること。いかりライクスホールのシャンデリアがブロッコリーシャンデリアと言われていること。いかりの食事はとてもおいしいということ。百恵さんの歌を大切に歌い継ぎたいということを語っていた。

 このライブから数日後、「徹子の部屋」に出演し、こちらでも百恵さんの歌をカバーすることについて「プレッシャーより感謝が多い」と話しておられたが、生で聴いた感想はもっと複雑な感情があるのだろう、と思った。聴いているこちらが想像する何百倍ものプレッシャーと感謝に加え、覚悟とか罪悪感とか思い出とかがまぜこぜになり、上からギューッとすさまじい圧をかけているような、ヘビーな聴きごたえがある。なのに解放的なのである。プレスされ、ブシュッと濃厚なジュースが染み出てくるイメージだ。エネルギーの放出!

 だからこそ彼の歌う百恵さんのカバーは、面倒くさくて愛しいのだろう。

 ライブが終わり、雨はまだ降っていたけれど、私は大満足で傘を差した。彼の歌声はやっぱり雨と合う。涙に近い湿気とハレーションをふくみ、心に虹がかかる。

 行きと同じ駅までの風景に、新たな彩りを感じた。

 また絶対観に行きたい。その時はタオルを買うぞ!

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。