子供たちに伝えたい日本の心

 明日香村の高松塚古墳も法隆寺の壁画も、源氏物語絵巻も、日本画というのは画材や技法が千年前も現在も、さほど変わっていません。古代の絵師と何か通じ合える喜びを感じます。

 私はこの日本人が知らない日本の絵の具のことを伝えるべく、中学から大学まで、ご依頼があると日本画の体験授業に出向いています。

貝合わせ講座の見本 胡粉地に砂子。

 主に貝合わせに絵付けをしてもらいます。見本は誰でも描けるような簡単な梅の絵ですが、上手に描くことではなく、胡粉を中心に日本画の絵の具の伝統に触れてもらう授業です。

 日本画の絵の具の代表的なものには「岩絵の具」や「泥絵の具(水干絵の具)」があります。原料は、色によって鉱物であったり、化合物であったり様々です。

 水晶やラピスラズリのような宝石も岩絵の具になるのですから、日本画は宝石で描かれた絵、ともいえます。

 胡粉は牡蠣などの貝殻を粉にしたものです。

 胡粉を乳鉢に入れ、粒子を感じなくなるまで乳棒で擦ります。粉ですから水に溶いただけでは紙に定着しません。

 そこで膠(にかわ)という接着材と練り合わせ、団子状に丸めます。

 そして胡粉団子を絵の具皿に打ちつけ、なじませます(胡粉の百叩きといいます)。

 さらに膠、水を加え、指で優しく溶き下ろし、はじめて絵の具として使用できるのです。

膠と胡粉。

 胡粉と膠をまぜる時、雨上がりの土のような、なんともいえないよい香りがします。

 胡粉を擦る人、団子にする人、百叩きする人と、皆で手分けをしながら体験してもらいます。胡粉を練るだけで30分はかかってしまいます。

 膠はクジラや鹿のゼラチン質を固形にしたもので、琥珀のように半透明で硬いものです。それを一晩水に漬け、ふやかしてから土鍋で湯煎、さらに布で漉してはじめて使用できます。

 このように日本画の絵の具はチューブから出るような手軽な絵の具ではありません(チューブ絵の具も開発されていますが、やはり質感が微妙にちがいます)。

 絵の具を練り、膠を湯煎するところから始めていては、美術の時間がいくらあっても足りないので授業で採用されないのでしょう。さすがに私の講座でも膠は冷凍庫に保存してあるものを持って行きます。

2016.02.06(土)
文・撮影=中田文花