京の師走に響く知恩院の除夜の鐘
「えーい、ひとーつ」「えーい、ひとーつ」「そーれっ」
年の瀬も押し詰まり、コタツに入って年賀状を書いていると、テレビのニュースで流れてくるのは知恩院の「除夜の鐘試し撞き」の話題です。知恩院の大鐘は日本最大級の大きさがあり、独特のダイナミックな撞き方が有名な、京の師走の風物詩です。
私は他宗派の尼さんですが、家は知恩院を総本山とする浄土宗の檀信徒です。知恩院の四季を背景に、祈る姿の美しさをお伝えしたいと、知恩院機関誌の「知恩」表紙絵を連載中です。今日はその表紙絵と共に知恩院の美をお伝えしたいと思います。
浄土宗総本山知恩院。浄土宗の宗祖法然上人が布教され、晩年を過ごしたゆかりの地に建てられたお寺で、江戸時代に徳川家の庇護のもと栄え、広い山内には日本最大級の国宝建築が立ち並びます。
その大きさに圧倒されながら三門(国宝)をくぐると、正面に急な石段の男坂が立ちはだかり、右手に緩やかな女坂があります。
坂の上には知恩院の中心となる御影堂(平成31年まで修理中)があり、さらにひっそりとした石段を上がると巨大な鐘楼が現れ、その威容に息を呑みます。
知恩院の大鐘は70トンもの重さがあります。親綱を握る1人の撞き手と16人の子綱を引く僧侶、総勢17人の僧侶によって撞かれます。
日頃は優雅に揺れる大袖もこの時ばかりは左右から肩にかけ、勇壮な出で立ちです。
撞き手が撞木を揺らしながらタイミングを計り「えーい、ひとーつ」と声を上げると子綱の引き手が「えーい、ひとーつ」と呼応。撞き手は「そ-れっ」と後ろ向きに倒れ込み、全身を使って打ち鳴らすのです。
重低音の鐘の音が冬の澄んだ空気を震わせて響きわたります。
撞き手は順番に交代しながら年をまたいで108回撞かれます。
大晦日はおよそ3万人の参拝者が列をなし、大変混雑しますので、ゆっくり見たい方には12月27日の「除夜の鐘試し撞き」がおススメです。撞き手がタイミングを失敗すると体が撞木に持って行かれるなど大変危険ですので、リハーサルをするのです。
時間も日中ですし、好きな方向から見ることができます。
試し撞きでは新人さんに指南役が指導にあたります。時折笑いが起きたり、終始和やかな雰囲気です。ベテランになりますと鐘を撞くフォームも美しく、地面と平行に倒れ込み、撞木の戻る力を利用してすっと起き上がるなど、なかなか見事です。
余談ですが、除夜の鐘を撞き終えると、お坊さんたちは冷えた身体を「年越しそば」ならぬ「年越してからそば」を食べて温めるのだとか(笑)。
●除夜の鐘の試し撞き 12月27日 14:00~
●除夜の鐘 12月31日 22:40~(参詣者口開門時間20:00~23:00)
2015.12.25(金)
文・撮影=中田文花