染織家・志村ふくみのルーツと創作の人生を一望

左:志村ふくみ《梔子熨斗目》1970年 絹紬、草木染・手織 滋賀県立近代美術館【前期展示 1/17~2/15】
右:志村ふくみ《紫の壱》1974年 絹紬、草木染・手織 滋賀県立近代美術館【前期展示 1/17~2/15】

 その色や言葉が、退路を断った命懸けの仕事から始まったことを知ったのは、いつだったろう。志村の母・小野豊は、柳宗悦の民藝運動や、黒田辰秋・青田五良の上加茂民藝協団に加わった女性で、富本憲吉らとの親交も深く、自ら理想的な教育を実践する場として「昭和学園」を設立している。また小野は一時期、青田に師事して植物染料を使った染め、織りを学んでいたが、家庭を切り盛りするために染織の道を諦めた人でもあった。

 離婚し、子供を抱えて戻って来た志村が、「どんな苦労をしても」染織で食べていくことを選んだ時、同じ覚悟で応援してくれたのが、この母だった。また黒田辰秋の勧めで伝統工芸展に出展するという時、糸を買う金も十分になかった志村を助けたのも、かつて母がその指で紡ぎ、染織を諦める時、納屋に封じてしまった真っ白い糸だという。

 そしていま、90歳を迎えてなお第一線で活躍する志村の仕事を、その娘・洋子が受け継ぎ、支え、工房を盛り立てている。今展では1950年代後半の初期作品から、2014年制作の《青孔雀》など初公開となる最新作まで、志村の作品約50点、さらに志村の母・小野豊(1895-1984)、小野が指導を受けていた染織家・青田五良(1898-1935)の貴重な染織作品も併せて展示、志村のルーツと、60年にわたる創作の人生を一望する。

左:志村ふくみ《どんぐりグレイの段》 1988年 絹紬、草木染・手織 滋賀県立近代美術館【後期展示 2/17~3/15】
右:志村ふくみ《青孔雀》 2014年 絹紬、草木染・手織 作家蔵【後期展示 2/17~3/15】

企画展『志村ふくみ―源泉をたどる』
会場 アサヒビール大山崎山荘美術館(京都・乙訓郡) 
会期 【前期】2015年1月17日(土)~2月15日(日) 【後期】2015年2月17日(火)~3月15日(日)
休館日 月曜日
料金 一般900円/高大生500円/中学生以下無料
電話番号 075-957-3123(総合案内)
URL http://www.asahibeer-oyamazaki.com/

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
ライター/エディター。1972年生まれ。明治学院大学非常勤講師。近著に『京都で日本美術をみる』(集英社クリエイティブ)、『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(新潮社)、共著に『チェーザレ・ボルジアを知っていますか?』(講談社)、『恋する春画』(新潮社)など。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2014.12.27(土)
文=橋本麻里