日本の古い絵画に登場する人々の「着物」に注目する

「誰が袖美人図屏風」(左隻) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

 豪奢な唐織から可憐な桜花文様の辻が花染めまで、衣桁や屏風にかけ並べられた、目も綾な衣装の数々。衣装の持ち主は室内に不在だが、趣味のよい衣とそこからくゆりたつ香りまで連想させ、女主人の匂いやかな美しさを観る者に感じさせずにはおかないのが、「誰が袖図」の魅力だ。華やかでいてどこか謎めいた「誰が袖図屏風」3点を中心に、描かれた衣装の美しさも含めて見所とした美人画も合わせ、近世風俗画の魅力を紹介するのが、この「誰が袖図 ─描かれたきもの─」展だ。

「誰が袖美人図屏風」(右隻) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

 着物を着ること自体が日常茶飯事でなくなって久しいが、日本の古い絵画の中に登場する人々は、現代よりずっと自由な着こなしで着物をまとっている。その原形となったのが「小袖」だ。平安時代の貴族たちはこれを「下着」として身につけ、袖丈が長く、袖口は縫い合わせない礼服、小袖に対して「大袖」と呼ばれる衣服(束帯や十二単など)を身につけた。

2014.11.29(土)
文=橋本麻里