下着から表着へ。小袖のデザインの変遷

「誰が袖図屏風」(左隻) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

 一方、より簡易な服装の庶民や武士たちは、小袖を表衣として用いていたという。その時代の小袖はほぼ無地だったが、鎌倉時代以降、公家に代わって武家が社会の表舞台に立ち、桃山時代に大きな経済力を身につけた町人が台頭してくると、小袖はもはや「下着」ではなく、それ自体がフォーマルな衣服となり、色彩や文様など、華やかな装飾が加えられていった。

 興味深いのは、桃山時代までの小袖では、男物と女物の間に形や装飾の差がほとんどないことだ。また武家と町人の間にもやはり差は少ない。これが封建制度の確立された江戸時代に入ると、公的な世界としての「表」=男性、私的な世界としての「奥」=女性、という構造に分かれ、衣装も身分や社会的な立場を表象する機能を強めていったため、表の世界に属する男性には個人の好みに基づく多様なスタイルや流行が生じにくくなった。

「誰が袖図屏風」(右隻) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

 しかし女性の属する「奥」の世界は、建前上「表」の世界からは見えない場だという約束事になっていたため、社会秩序を乱さない限りにおいて、男性よりは自由な衣装の選択が許され、身分や既婚・未婚などの立場に応じて、時代ごとにそれぞれの好みを反映させた小袖とその流行を生み出していった。こうした近世社会のありようを踏まえておくと、小袖のデザインの変遷もより興味深く見ることができるはずだ。

『誰が袖図 ―描かれたきもの―』展
会場 根津美術館 展示室1 
会期 2014年11月13日(木)~12月23日(火・祝)
休館日 月曜日
料金 一般1000円/学生(高校生以上)800円/中学生以下は無料 
電話番号 03-3400-2536
URL http://www.nezu-muse.or.jp/

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
ライター/エディター。1972年生まれ。明治学院大学非常勤講師。近著に『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(新潮社)、共著に『チェーザレ・ボルジアを知っていますか?』(講談社)、『恋する春画』(新潮社)など。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2014.11.29(土)
文=橋本麻里