仏教という共通する宗教の上に花開いた建築文化
日本で唯一の大工道具の博物館が、創設30周年を機に移転、新設したのがJR新神戸駅に隣接する「竹中大工道具館」だ。
栗材を荒々しくはつった、その道具跡──刃痕を装飾とする名栗仕上げの扉に始まって、いぶし瓦を載せたむくり屋根、聚楽土を混ぜた漆喰外壁、特殊な仕口を見せる組天井、中庭の敷瓦など、日本建築の伝統的な技術や素材を使った建物そのものが、観るべき「展示」作品となっている。
もちろん本来の意味での展示も充実しており、大徳寺玉林院の茶室「蓑庵」(重要文化財)のスケルトン模型では、土壁が塗られていないため、下地の竹小舞や櫛形板など、その構造が理解できる。あるいは法隆寺大工・西岡常一の唯一の内弟子で、現在は寺社建築専門の工務店「鵤工舎」を率いる小川三夫棟梁が再現した、唐招提寺金堂の原寸大の柱と軒まわり、またその制作工程がわかるような各部材や型板の展示など、寺社や住宅建築に受け継がれてきたさまざまな技術が紹介されている。
特筆すべきは、宮大工による槍鉋の実演など、「もの」だけに終わらない、技術を継承する「人」に接することができるのも、この博物館の大きな特徴だろう。
そして開館30周年を記念した巡回展、「日中韓 棟梁の技と心」展が、東京での開催を終え、新装なったばかりの新館へやってきた。政治的には何かとぎくしゃくしている東アジア、日本、中国、韓国3カ国の長くて深い文化交流の歴史を、建築をテーマにたどろうというものだ。今回紹介される3カ国の棟梁は、北京市の紫禁城(現・故宮博物院)の修繕組織を率いる李永革さん、火災に遭ったソウル市崇礼門(南大門)の解体修理をまかされた申鷹秀さん、奈良の薬師寺金堂を再建した小川三夫さんら、各国の伝統建築を今まさに支えている職人だ。
彼らの技術や、それぞれの国の建築文化を実見できるものとして、中国から朝鮮半島や日本に伝わり、各地でアレンジされていった木造建築の代表例として、「組物」(寺院などの柱の上にあって軒を支える部材)に注目。韓国からは華麗な組物彫刻を施した、長さ4mにも及ぶ大迫力の実寸組物模型、日本からは新たに制作された薬師寺東院堂の1/2スケール模型、中国からは紫禁城の組物模型や建物の配置や室内意匠の設計に用いる紙模型などを出展、3カ国の特徴が窺える。こうした各国の伝統的な大工道具や資料など100点余りの展示作品のほか、各20分前後の映像作品3本も上映。仏教という共通する宗教の上に花開いた建築文化と、互いに及ぼし合った影響や差異を明らかにする。
竹中大工道具館開館30周年記念巡回展 『日中韓 棟梁の技と心』
会場 竹中大工道具館(兵庫・新神戸)
会期 2014年11月1日(土)~12月28日(日)
料金 一般500円(税込)ほか
電話番号 078-242-0216
URL http://www.dougukan.jp/
2014.12.13(土)
文=橋本麻里