安価で安定供給できる納豆と賞味期限の考え方

 稲藁の菌だけで仕込む納豆。天然菌は、環境の変化を受けることもあれば、発酵が不安定になることもある。発酵時間においても、純粋培養した菌のおよそ1.5倍の30時間を要するなど、当たり前のようで、当たり前ではない製法だと言えます。

 実際、昔は稲藁で作るのが普通だった時代はあったかもしれませんが、現在、日常的に稲藁の中に実際に入っている納豆を見かけることはほとんどありません。日本中のスーパーマーケットに、安価で、安定的に、そして雑菌汚染などのリスクを最小限に避けながら卸すためには、やはり純粋培養した納豆菌を活用する必要があるのです。

 得られた生産効安定供給と引き換えに、じわりじわりと、日本人の記憶の中から、稲藁の納豆菌でしか表現できない本来の味の感覚は薄れていき、現在では、ほとんどの人が知らないものとなっていると言っても過言ではありません。それを最も表している身近なことといえば、賞味期限と納豆の関係かもしれません。

 納豆の賞味期限はおよそ2週間程度が基本とされています。消費期限は実際に食べられる期間、賞味期限は味の観点で生産者がおすすめできる期間を示します。賞味期限について語ることは、ある意味で感覚の話とも言えるので、これは僕自身の感覚として理解してもらえるといいと思いますが、市販の一般的な納豆は、やはり2週間以内に食べ切った方がいいと感じます。少しずつ冷蔵庫の中で乾燥が進み、風味も食感も悪くなっていくと思います。

 一方で、稲藁納豆菌で仕込んだ「らくだ坂納豆工房」の納豆は、時間が経つほどに少しずつ風味が良くなっていく変化が味わえます。実際に、一般的な賞味期限の付近となる2週間を超えた頃合いから、納豆本来が持つ旨味や風味に加えて、熟成香のような風味も広がりを増していきます。3週間くらいでおおよそピークを迎え、それを過ぎたらやや熟成感が強くなる傾向が生まれ、その先は好き嫌いは多少分かれていくかもしれませんが、4週間くらいまで変化を楽しみながらおいしく食べ続けることができました。そう、納豆は本来、時間の経過とともに、その風味の変化も一緒に味わえる食べ物だったのです。

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