東京が恋しくなったりしないんですか
夕食を食べながら、ふと松本さんに聞いた。東京が恋しくなったりしないんですか、と。返ってきたのは意外な答えだった。
「ホームシックはあるよ、正直。十数年間京都で暮らして、みんなやさしくしてくれるし、温かく迎え入れてくれた。でもやっぱりぼくは異邦人。自分の中の問題ではあるけれど。そして、やりたいことの百分の一もできてないなと最近思うんだ。コロナでリモートが流行ったけれど、どんなに技術が進化しても、対面じゃないとできないことがある。だから、やりたいことを完遂するには、東京にいるべきだろうなって。ただ、だからといって東京に傾きすぎると、大事なものをなくしてしまう。いまは左右のバランスの、ちょうどいい部分を探っているところかな。
ただ、晩年のひとり暮らしはいいものだよ。若返る。なにもかも奥さんに頼り切り守られていたころの写真のぼくは、いまよりずっと老けて見えるんだ。ひとりになって、なにができるようになったわけじゃない。こうやってご飯食べに行くことしかできないけれど、新しい場所へ、知らない場所へ、躊躇なく飛び込めるようにはなったからね」
白竹堂京都本店
住所 京都市中京区麩屋町通六角上ル白壁町448番地
https://www.hakuchikudo.co.jp/
ホホホ座浄土寺店
住所 京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル1階
http://hohohoza.com/
松本隆(まつもと・たかし)
1970年にロックバンド「はっぴいえんど」のドラマー兼作詞家としてデビュー。解散後は専業作詞家に。手がけた作品は2,100曲以上にもおよぶ。

松本隆と風街さんぽ
定価 1,650円(税込)
文藝春秋
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Column
松本隆と歩くぼくの風街
「ねえ、ぼくの"風街"めぐりをしてみない?」――松本隆さんがあるとき言った。作詞家・松本隆さんの「風街」とは、松本さんの頭の中に存在する街だ。しかし、その「風街」は松本さんの人生と創作活動に深く結びついている。「松本隆と歩くぼくの風街」では、松本さんとともに「風街」を巡る旅に出かけ、その足跡をたどっていく。










