おじさん文化にまったく興味のない七十五歳の青年

「二〇一七年二月の火祭り。あれでもう人生観が変わったよ。一メートルぐらいある松明を持って、腰に荒縄を巻いて、白装束で山を登るんだけど、命からがらだった。雨の日で道が悪かったし、垂直に近い角度の断崖を登るんだ。脇を覗けば真っ暗で奈落の底。途中の広場では男たちがケンカをしてる。よく生きて戻ってこれたと思うよ」

「まるで漫画みたいな世界でしたね」

 山下さんは言う。

「松本さんは、お酒を飲まず、おじさん文化にまったく興味のない七十五歳の青年、という感じがすごくするんです。何年か前、細野晴臣さんと松本さんの会話をちらっと聞いたことがあって。するともう、大学生の会話やったんです。シン・ゴジラ観た? 観た観たって。ゴルフとか夜の街とか、いわゆる大人の社交をしてこなかった二人。だから、青年性を保っているんだろうなって」

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