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 いつの頃からか、松本さんといえば「帽子」がトレードマークになった。あるときは中折れ帽だったり、あるときはキャップだったり。いつでもどこでも松本さんは帽子と一緒。ご飯を食べるときも脱ごうとしなかったりする。「帽子、被ったままですよ」とわたしがうるさい小姑のように言うと、「つい忘れてしまうんだ。身体の一部みたいになってるから」と苦笑い。

「でも、ぼくの帽子デビューは神戸に来てから。それまで自分に似合うと思ってなかった。この店の帽子と出会うまでは」

 ここはトアロードに本店を構える帽子専門店「マキシン」。1940年の創業以来、モダンでハイカラな舶来ものや自社製の帽子を販売している。

「男性も女性もハット帽は苦手な方が多いんです。最初はなんだか小っ恥ずかしいですし、どんなカタチが似合うかもわからない。つばが広いのがいいのか、狭いのがいいのか。でも、自分の頭にフィットするものを探せば、意外とみなさん大丈夫。センセイもどんなタイプの帽子でもよくお似合いです」。そう語るのは、マキシンの常務取締役・柳憲司さん。創業家の四代目・渡邊江美さんの夫だ。

「柳さんもぼくのグルメ友だち。おいしい焼肉を食べにいったりね(笑)」

「センセイとは10年以上のお付き合い。仲良くさせてもらってます」

 店の上には工房があり、15人の職人たちが帽子を手作りしている。オリジナルのオーダーメイド帽のほかに、航空、鉄道、警察、消防、百貨店、ホテル、そしてオリンピック選手団や博覧会のコンパニオンなどなど、誰もが一度は「見たことがある!」制帽も数多く手がけている。そして、雅子さまが皇太子妃として初めて伊勢神宮を参拝したときに被っていた帽子もマキシン製。

2025.03.06(木)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖