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「神戸の友だちって、仕事やお金じゃないんだ」
松本さんは以前、わたしにこんな話をしてくれたことがある。
「神戸の友だちって、仕事やお金じゃないんだ。純粋な親切、純粋な友情。そういうことって、ぼくは初めて感じたんだ。
たとえば、細野(晴臣)さんとは学生時代からの友だちだけど、どうしてもどこかに仕事が絡んできてしまう。(筒美)京平さんもそう。一緒に旅をしたり、おいしいものを食べたり、裏も表もわかってたけど、仕事のパートナーでもある。そこはどうしても外すことができない。とっても大事なことだから。
ただ、神戸の友だちはまったく違う。風邪をひいたら薬を持ってきてくれる。ごめん助けて、って言えば助けてくれる。そういう関係がぼくにはすごく新鮮だった。ああ、こういう付き合い方があるんだと。何でもない関係って意外といいもんだなと思ったんだ」

そんな「神戸の友だち」との「友情の証し」が2024年5月にできあがった。トアロード商店街のシンボルアーチだ。
もともと商店街には40年ほど前に設置されたアーチがあったが、長いあいだ風雨にさらされ、ずいぶんくたびれてしまっていた。歴史あるトアロードを愛する松本さんは、古びたアーチをずっと気にかけていたという。
「コロナのときにはついに電気も消えちゃって。和美さんに『あのままでいいの?』と言ったんだ」と松本さん。実はその頃、松本さんは、トアロードを舞台とする歌をはっぴいえんどの盟友・鈴木茂さんとともに自主的に作っていた。
「東京時代の仕事は、何月何日に曲を発表するから、そのためにはいついつまでに詞を書いて曲を書いてレコーディングしてと、全部時間割が決められていた。でも今回は完全に自然発生。誰かに頼まれたわけじゃない。ただただこのトアロードを、裏通りも含めたこの街全体をもっと有名にしたい、次の世代にちゃんと受け渡したい、そういうぼくの思いだけで勝手に作ったんだ。ヒットメーカーとしてのサガというか本能というか。イライラするわけだよ、目抜き通りのアーチがヨレヨレなのに、商店街のみんなはなんだかのんきでさ(笑)」
そして、既に曲があることを知った和美さんは、「それは残さなあかん!」と奮起。止まったままだった和美さんたちを中心とするトアロード商店街のリニューアルプロジェクトが具体的に動き出す。そして、松本さんと鈴木茂さんによる「新曲」もアーチに刻まれることとなった。

銀河模様のワンピースから
流れ星が宇宙に弾け
黒のコンバース跳ねるたびに
あの娘の切り抜きのブルースカイ
晴れ晴れな都会
「トアロードのハレ娘」(詞:松本隆 曲:鈴木茂)
2025.03.06(木)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖