この記事の連載
「ジャズ喫茶がある、とフラッと入ったら全然無視されてさ(笑)」
「ぼくは越してきて通い始めたから、2012年からの常連だね」と松本さん。「もっと長くいらっしゃるような気がしますね」とマスター。
「最初は、ああジャズ喫茶がある、と思ってフラッと入ったんだ。でも全然無視されてさ(笑)」
「いやいや(笑)。うちは『いらっしゃいませぇ!』っていうスタイルじゃないんですよ。心の中で静かに『いらっしゃい』と」

「でもぼくを認識してくれるようになったのは3回目くらいからでしょう」
「常連さんの誰かが『あの人は作詞家の松本隆さんですよ』と教えてくれたんです。最初は、失礼ながら、わからなかった。ぼくはジャズとクラシックが専門だし、センセイもいちいちそんなことは触れ込まない人。でも、素性がわかった途端に打ち解けた。ジャンルは違っても音楽という接点がある。話がすごく噛み合うわけです。世代も近いですし」
「マスターはぼくの3つくらい上。だからお兄ちゃんみたいな存在でもあって。だいたいマスターと話をすると人生論になる。でも、ぼくが『こうだ』と言うと、マスターは『それは違う』と否定から入るんだ(笑)」
「こういう知名度の高い方にはね、そう言いたくなるんですよ。『ちょっと待って』って。ささやかな抵抗です(笑)」
2025.03.06(木)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖