在住30年。今改めてニューヨークが好き

――ニューヨークで30年近く暮らしておられるなかで、トランプ氏の再選を含む近年のアメリカの変化をどのように感じていらっしゃいますか?
トランプの再選、そしてそれ以降の移民排斥、人権の縮小は見ていてしんどいし、アメリカの民主主義や人間の良心を信じて生きてきたので、めちゃくちゃ敗北感があります。一期目にも差別や暴力が噴出して十分つらかったのに、また当選させる人たちがあれだけいるのだということに傷つく気持ちはありました。ただ、トランプに投票した人みんながすごく悪い人たちかっていうと、そんなことはない。中にはとんでもないレイシストや極右もいますが、それは割合的にはごくわずかで、まったく違う絵を見せられてきた人たちがいるのだと理解しています。だから希望を失ってはいけないですよね。
――現状があまりにも過酷で、思わず心を閉ざし、無関心になってしまう人もいるように感じます。
絶望して無関心になってしまう気持ちはわかります。物価高で、賃金は安いし、なかなか上がらない。生活のために仕事に追われていると、自然と社会運動に使えるリソースも減ってしまうのだということは、私自身も実感しています。でも、私たちの無関心は、権力側の思うつぼなのだとも痛感しています。

最近、ニューヨークのことを改めて好きだなと深く感じています。移住してきたばかりの頃は、日々過ごしているだけでもアドレナリンが出っぱなしで、それこそ「ニューヨーク、ラブ!」という気持ちで溢れていたのに、ここ数年は心がニューヨークから離れ、別の場所でもいいなあと思ったりもして、実際、別の土地に引っ越そうとしかけたこともありました。でも結局、もう一度腰を落ち着けようと決めたら、またこの街の魅力が新鮮に見えてきました。歩いたことのない道を歩くたびに、新たな発見がある。こんなにも近くにヒントや愛が転がっていたのかと気づかされます。以前はキラキラしたものばかりが気になっていたけど、歳を重ねて目を向けるポイントが変わってきたのかもしれない。
今、トランプのおかげで移民として口を塞がれるような気持ちで生きていますが、私たちの生活や文化は、政治と繋がっている。これまで気づかなかった景色を見ながら、こんな時代にどういう気持ちで生きていけばいいのかを考えています。
佐久間裕美子(さくま・ゆみこ)
ライター、アクティビスト。ニューヨーク在住。カルチャー、政治、社会問題について執筆。著書に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『Weの市民革命』(朝日出版社)、『みんなで世界を変える! 小さな革命のすすめ』(偕成社)など。訳書に『編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる』(岩波書店)など。Sakumag Collectiveを通じて勉強会や情報発信などの活動を行っている。

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ゲストの方に気になる話題を語っていただくインタビューコーナーです。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
2025.08.16(土)
文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘