人気YouTube&Podcast番組『ゆる言語学ラジオ』の水野太貴さんが「死ぬ気で書いた」という初の単著、『会話の0.2秒を言語学する』。日常における言語の不思議や魅力が熱量たっぷりに語り尽くされた本書は、発売前から1万3000部以上の予約が入ったという大注目の一冊。言語学を愛してやまない水野さんは、今まで「言葉」とどのように向き合ってきたのか?

大人になって初めて他人と趣味を共有する喜びを知った

――「まえがき」に出てくる、小学生の頃の「難読漢字ブーム」のエピソードが印象的でした。このような趣味を共有できる友達は少なかったのでは?

 小学3年生のときには、「帰りの会」の時間に難読漢字を紹介するコーナーを持っていました。僕が難読漢字を書いて、みんなに「これ読める?」ってクイズを出すんです。それくらいハマっていましたね。

 でも僕、他人と趣味を共有したいという欲があまりなくて。趣味の話は人とできなくてもいいとずっと思っていたんです。一緒に『ゆる言語学ラジオ』を配信している堀元見さんと最初に会ったときに、「初めて趣味が合う人を見つけた」と感じたんですよね。そのときに「趣味って誰かと共有すると面白いんだ」って気づきました(笑)。

――そして高校生の頃に青春を犠牲にするほど英語にハマったことで言語学オタクになり、時を経て今回単著を出すまでに。

 読み始めてまずハッとさせられたのが、イギリスの哲学者、ジョン・オースティンの学説を紹介している部分。「ことばとは世界への働きかけであり、事実そのものを伝えることはとても少ない」という言葉の特性は、普段意識することはないけれど、言われてみればその通りだなととても納得しました。

 例えば「この部屋、ちょっと寒いな」という会話は、寒いという「事実」も伝えているけれど、たいていは暖房の温度を上げるなどの「提案」や「要求」をしている、という話ですね。

――これ、我が家では「事実」だけを受け取られてしまって、こちらの「提案」や「要求」が伝わらないことが多いんです。そのせいで、よく家族と揉め事が起きてしまって……。こういう場合、水野さんならどう解決しますか?

 僕自身も、相手の気持ちを汲み取ったり共感したりするのが得意ではないので、偉そうなことは言えないのですが……。本でも紹介した「関連性理論」の観点から考えると、人ってなるべく少ない労力によって最大の効果が得られるように解釈してしまうんです。この場合、「暖房の温度を上げて」という要求よりも、もっと手前にある、とっつきやすい解釈で止まってしまうのかなと。

 だから僕なら、相手が迷わず理解できるように、刺激をもっとわかりやすくする方向で工夫すると思います。

――「刺激をわかりやすくする」とは、例えば「部屋の温度を上げて」と具体的に相手に伝えるということでしょうか?

 そうです。逆に、「温度を上げて」と言わないのはなぜですか?

――「寒い」ということに共感してほしいからかもしれません。相手は寒いかどうかわからないのに、「温度を上げて」と言うのは自分のエゴのような気もしてしまって。

 なるほど! 温度を上げて欲しいという明確な意図があるなら「この部屋寒いね」と言うのは、やや婉曲だと感じていたんですが、提案の前に共感をして欲しいんですね。僕、共感をすっ飛ばしてすぐ解決に向かってしまう人間なので……。勉強になります(笑)。

2025.09.06(土)
文=高田真莉絵
撮影=榎本麻美