考えごとをする時間は1秒もない

――言語学マニアである水野さんですが、普段から気になる会話や言葉があったらメモしているんですか?
格助詞(主に名詞につき、その名詞がどのような働きをするのかを示す語。「が」「を」「に」など)が好きなので、特に格助詞関連のものはメモするようにしています。
最近「おっ」と思ったのは、Podcast番組『東京ポッド許可局』の第632回「長嶋知らない論」を聴いたとき。長嶋茂雄さんの訃報に際して「昭和という時代が終わった」という話題が出ていたのですが、美空ひばりさんや手塚治虫さんの訃報の際にも同じように「昭和が終わった」と語られてきたそうなんです。それをマキタスポーツさんが「ずっと終わり続けている」と表現していて。普通なら「終わる」と「続く」という動詞はつながらないのに、その組み合わせがすごく面白いなと思って、思わずメモしました。
あと本のタイトルは面白いものが多いので、新刊情報や、新聞やXなどでチェックしています。

――インプット量がすごいですね!
僕、考え事をする習慣がないんですよ。一人でぼーっとしたり、散歩したりしたいと思う人が多いと聞いたことがあるんですが、自分の場合はそういった時間は1秒もない気がします。起きているときは基本仕事をしているか、インプットしているかなので。
トイレや湯船では本を、移動中の電車では新聞を読んでいるので、いわばインプット中毒みたいになっているかもしれません。ただ、最近整体に通い始めたんですが、その時間だけはスマホも触れないので、次回の収録の内容や、依頼されている原稿の構成を頭の中で組み立て、なんとか時間をつぶしています。
――徹底していますね。
以前、知り合いのライターさんに「水野さんって自分のことに興味がないですよね」って言われたことがあったんです。確かに、幸せってなんだろうとか考えたことがあまりないんですよね。それよりも事実の方に興味がある。
自分に興味がなくても、この本の執筆を通じて改めて自分と出会い直せたのはいい経験でした。そういうルートでしか、己を知ることができない悲しきモンスターみたいになってしまっていますが(笑)。

水野太貴(みずの・だいき)
1995年生まれ、愛知県出身。名古屋大学文学部卒(言語学専攻)。人気YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」(YouTube登録者数は38万人超)のパーソナリティを務める。著書に『復刻版 言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)、『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)がある。

会話の0.2秒を言語学する
定価 1,760円(税込)
新潮社
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Column
TALK TIME
ゲストの方に気になる話題を語っていただくインタビューコーナーです。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
2025.09.06(土)
文=高田真莉絵
撮影=榎本麻美