実存に関わらないことはスムーズに話せる?

――「共感は難しい」とのことですが、『ゆる言語学ラジオ』では、相手の言葉の意味をすばやく理解した上でテンポよく会話を展開されている印象です。言語学を学んでいることと、スラスラと淀みなく話せる能力に関連はあると思いますか?

 多分、関係ないんじゃないかと思います。僕は普段の生活においてほとんど考え事をしていないんです。その場で思いついたことを口から発しているだけで、事前にどんなことを話すか考えがまとまっているケースはほとんどなくて。

――そうなんですね。話すペースが早い方は、常に頭の中で思考し続けているイメージがありました。

 『ゆる言語学ラジオ』は、スムーズに話しているように編集して見せているだけです。エンタメとして聞いてもらえるように、スタッフの方にうまく編集してもらっています。それに、スムーズに話すことは決して偉いことではないと思っています。

 あと、会話のペースが早いのは、正しく理解してもらおうという気持ちが人より薄いからというのもあるかもしれません。そもそも人って複雑だから、その全てを理解してもらうのは無理だと感じていて。誤解されてもしょうがないと諦めているから、ペラペラとその場で思いついたことを口にしているのだと思います。

――相手に誤解されてもあまり気にならないタイプですか?

 そうですね。でも僕が『ゆる言語学ラジオ』などで話していることって、自分の実存にそこまで関わることではないので、気にしなくて済んでいるだけ、というのもあります。

 研究者の方と話していて思うのは、みなさん決して早口で話すわけじゃないんです。むしろ、いろいろ調べて研究してきたからこそ、一度立ち止まって考えてから話しますし、歯切れの悪いことも言う。また、専門内容に関する話は、ご自身の実存に関わるでしょうから、言葉も選ぶ。昔は「スラスラ話せること」が美徳だと思っていたんですが、今は熟考して言葉を選ぶ人は誠実で格好いいなと憧れるようになりました。やっぱり、それは自分の発言に責任を持っているということだと思うので。

2025.09.06(土)
文=高田真莉絵
撮影=榎本麻美