夜な夜なマンガに夢中になる大人が急増する中、2022年に誕生した「CREA夜ふかしマンガ大賞」。眠りにつく前の自分だけのひとときに、ページをめくりながら癒され、息を呑み、泣いて笑って――。第4回となる今年も、日常のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる名作が揃いました!

 選考委員の圧倒的な支持を受けて1位に輝いたのは、さまざまなルーツを持つ人たちの葛藤を描いた『半分姉弟』(藤見よいこ著、リイド社)。大賞受賞を記念して、藤見先生に話を聞きました。

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――このたびはおめでとうございます。「CREA夜ふかしマンガ大賞」1位の連絡を受けたときはどんなお気持ちでしたか?

藤見 とにかくびっくりしました! 推薦者の、業界のトップランナーのような漫画編集者の方々にとてもありがたいコメントをいただいて恐縮です。編集さんとずっと「手汗がやばいね」って言い合っていましたね(笑)。

――「ハーフ」と呼ばれる人々が直面する現実を初めて知り、とても衝撃を受けました。また、示唆に富む内容でありつつマンガとしてもめちゃくちゃおもしろい! そんな本作を描くに至った経緯は?

藤見 何年か前から、日本のマンガだけではなく海外の映画などでも、今まであまりフォーカスされてこなかったマイノリティの人たちに光を当てるような潮流が来ていると感じていました。「ハーフ」というテーマは自分ごとでもあるので、いよいよこれをマンガで描くときが来たかなと思いました。

――企画段階では必ずしもポジティブな反応ばかりではなかったそうですね。

藤見  最初は別の編集部に提案したのですが、「テーマが重すぎる、楽しく読めない」という反応でした。媒体によってカラーがありますから、そこの求めるものに合わなかったということなんですけど。なので、「楽しく読めること」は特に意識しています。問題提起という面で評価していただけるのもうれしいけど、ストレートに「マンガとしておもしろい」と言ってもらえるのはすごくうれしいです。

担当編集者の「もっとさらけ出せるでしょ?」

――シリアスなストーリーテリングとコミカルなパートの両方を堪能しています。だからこそ広く読まれて話題になっているのですよね。「トーチweb」は水が合ったということでしょうか。

藤見 はい。最初の担当さんはネームの第1稿を読んで「主人公がおとなしすぎる。もっと気持ちをさらけ出せるでしょ?」とおっしゃったんです。「もっとやれ」と言われたのがすごくうれしくて、絶対にトーチで描きたいと思いました。

――ご自身の体験や視点を活かして描くのであれば、コミックエッセイとして描くという選択肢もあったと思うのですが、それは考えませんでしたか?

藤見 まったく考えなかったですね。エッセイマンガは読むのは好きなのですが、自分で描くならやっぱりストーリーマンガだと思いました。

――しかし冒頭から「ハーフ」について自分がいかに偏った思いこみにとらわれていたか、いろいろなことに気づかされます。第1話の主人公の〈米山和美マンダンダ〉はフランス人と日本人のハーフ。父はアフリカ系フランス人なので、濃い色の肌を持っています。

藤見 「ハーフ」というと白人系のハーフを思い浮かべる人が多いのかなと思います。そうじゃなくていろんな人がいるということをいろんな角度で描きたいと。

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