自然の循環のなかで生きる暮らし方

――移住先に選んだ北杜市は、もともと何かつながりがあったんですか?

 「実は27年前に両親がこの土地に移住してきていいて、隣でペンションをやっているんです。ここに遊びにくることはよくあったので、土地勘はあって。そういうこともあって選びました。

 でも、こんなに豊かで過ごしやすく感じる北杜市でも、27年前と比べると、環境は激変しています。以前は夏でも扇風機すらいらなくて、夜は寒いくらいだったのが、今は夏季休業しなきゃならないくらいに暑くて。それに、最近は庭に鳩が訪れるようになったり。これまでにはなかったことです。純粋な気温の変化はもちろんですが、それに伴って動植物も変わってきているというのを実感しています」

――できる野菜も変わっていきますよね。

「農家さんは、来年どうなるか全然わからないって言っていました。去年はトマトがよかったけど、今年は全然ダメだったり。経験則ではもう対応しきれない変化が起きている。野菜の値段はすごく高くなったとよく言われますけど、これだけ天候が変わってきていると、育てるのもとても大変になってきてしまっているので、仕方ないですよね。あとは森がすごく少なくなりましたね。北杜市には太陽光パネルの規制がなくて、そのあたりのことも関係していると思います」

――そういう変化の実感も、自然と触れているとよりダイレクトにあるのですね。とはいえ、自然豊かな北杜市は移住先の土地としても人気だと思います。そのあたりの変化はどうですか?

「最近は20代の方で、有機農業をはじめるといって移住してくる方が多くなりました。若い方が町の活性化につながって、同じように環境や体のことを考える人の輪が広がるのはうれしいです」

――おいしい野菜も、自然のなかで食べるとさらにおいしいでしょうしね。

 「そうなんですよね。野菜そのものが味わい深いので、凝った料理をする必要はないし、調味料も少なくてすみます。モノを多く消費すればするほど、環境への負担は大きくなりますし。有機野菜を選ぶことは、自分を大切にすることにもつながるし、家族がいたら家族を守ることにもつながります。

 日々の生活でもそうですけど、山登りやキャンプしたりすると、いやでも自然の変化に目がいきます。自分たちの選択ひとつひとつがその変化に直結しているんだ、と思うと、日常を考えざるを得ないところもありますね」

2025.02.26(水)
文=吉川愛歩
写真=寺澤太郎(ポートレート)