鉛筆の小屋
働き方の変化にともない、都会暮らしにとらわれる必要がなくなった。はからずも感染症の流行がきっかけとなって時代はシフトし、暮らし方を見つめ直した人も多いだろう。テレワークの普及から、都会から地方へ移住したり、多拠点生活をはじめたり、そんな話が珍しくなくなった。
そんな中、自然と世俗がいい形で共存している「軽井沢」という場所に魅かれ、緑に囲まれた森暮らしを始めた人たちがいる。感性豊かな人々が実践する新しい生活スタイルをのぞいてみよう。
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「軽井沢に別荘を建てる」なんてサラリーマンにできるわけない。夢のまた夢と思っていたけれど…
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「東京のマンションを手放そう」森の中にかけがえのない終の棲家をみつけた夫婦
もう、こんなになくていい、ある日彼女は悟った
人生を変えたい。そう思った時、人はどこに向かうのだろう。Eさんは、軽井沢の森へと向かった。その時、20代。10年前まで、よもや田舎に住もうなんて考えもしなかった。生まれも育ちも東京で、実家は不動産業を営んでいた。高校時代にカナダに留学をし、その後大学生の頃は友達と遊んだり、飲みに行くことが楽しかった。卒業後は、家の仕事を手伝っていた。
ある日、ふと「きりがない」と思ってしまった。このまま実家に暮らして、四六時中家族といて、夜は友達と飲みにいく、そうして歳を重ねていくことに。もちろん新しく部屋を借りることもできたけれど、東京という街の「全部ある」環境がいやになってきた。こんなになくてもいい。もっとシンプルでいい。幸い、仕事もほぼリモートでできることが分かった。やるなら今のうちだと思った。
モリノイエに相談した時「まだ若いのに」「女の子ひとりで大丈夫か」などと言われる覚悟をしていたけれど、「素敵な選択ですね」とあっさり言われた。「ともあれ見てみませんか?」と誘われ、軽井沢を行き来するうち、自分の考えも整理されてきた。東京に仕事を残しているし、万が一手放す時のことも考えて、あまり遠くの僻地はやめておこう。立地は傾斜地や崖地を避け、スーパーもほどよく近く、周辺のお家も整備されていると安心だよね、なんて話をしながら見ていくうち「ここいいかも」とピンとくる土地が見つかった。森の中に、そこだけパッと光が降り注いでいた。
2023.02.10(金)
文=山村光春(BOOKLUCK)
撮影=松村隆史