この記事の連載

「ぼくは誰なんだ」「どこに向かってるんだ」
そう問いながら生きていた。繰り返し、繰り返し、「ぼくは何者か」と。
――松本隆著のエッセイ「タイムマシンはいらない」(2007年)より

「さて。今日はどこから行こうか。とにかく好きなお店がたくさんあるんだ。正統派のフランス菓子なら『パティスリー モンプリュ』がおすすめだし、チョコレートなら『ラ・ピエール・ブランシュ』、洋食なら『門』……」

 ここは神戸・元町、トアロード。トアロードとは海と山を結ぶ約1キロほどの坂道のことで、かつては山側の北野に居を構える外国人たちが、海側の居留地にある仕事場へと通うための道だった。

 トアロードの名は明治時代に実在した外国人向けホテル「Tor Hotel(トアホテル)」(現・神戸外国倶楽部)に由来するという説、「門」を意味するドイツ語「Tor(トア)」に由来するという説、ホテルが建てられる前はイギリス人富豪の邸宅「The Tor(トー=丘)」があったのでそれに由来するという説、いろいろあるそうだ。

2025.02.19(水)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖