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大滝さんが居候していたアパートがあった若林

松本 大滝さんとの出会いなんだけど……。
大滝 どのくらい記憶が違ってるか、おれが訂正してやろうか(笑)。
松本 ぼくは覚えてないんだよ(笑)。
大滝 最初は……細野さんの家だったと思うんだよね。
松本 麻雀してたんだっけ。
大滝 いや、細野さんの家に行ったら松本がいた、っていうのが出会いだったんだよ。
松本 大滝さん、なんとなくぼくの前に現れて、いつの間にか同じ場所にいるようになったって感じがあったんだけど。
大滝 大当たり。
――『松本隆対談集 風待茶房 1971-2004』より

 世田谷区若林。三軒茶屋から西へ1キロほど離れたところにある町。

「何度か遊びに来たことがあるんだけど。確か、このあたりだったと思う、大滝さんの下宿があったのは。下宿というか、当時、大滝さんは布谷文夫さん(注:ロックシンガー。ブルース・クリエイションの初代ヴォーカル。大滝さんとはバンドを一緒に組むなど旧友であった)のアパートに居候していたんだ。四畳半にコタツとベッドが置いてあって、歩く隙間もないくらい狭かったのをよく憶えてる」

 環七通りから1本中に入った狭い路地。世田谷線の若林駅から延びる商店街を歩く。松本さんは、おぼろげな記憶を頼りに、思い出のジグソーパズルを組み立てている。年季の入った建物の前で立ち止まっては、朽ちかけたピースをはめながら。しかし。

「まるで未知の惑星を彷徨っているみたい」と苦笑い。「来てみれば何か手がかりが残ってるんじゃないかと思ったけれど、半世紀以上も前のこと。わかるわけがないよね」

2023.11.28(火)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖