双子のような『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『道化師』
人は愛ゆえに苦しみ、生き、死ぬ……この世に女として生まれて、愛の試練を一度も味わわず生きてきた人は幸せです。燃えるような激しい愛と憎しみはつねに表裏一体で、嫉妬はどんな凶器よりも恐ろしい猛毒になる。嫉妬するのも地獄、嫉妬されるのも地獄。そんな生き地獄のリアルを、世にもドラマティックなオペラに仕上げたのが、『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『道化師』のふたつのオペラなんです。
どちらも南イタリアの庶民の生活を素材にした作品で、前者はマスカーニ作曲、後者はレオンカヴァッロ作曲だけど、このオペラが頻繁にふたつ並べて上演されるのは、ほぼ同時期に作曲されたそれぞれの音楽家の「出世作」であり、「嫉妬による殺人」(!)がテーマになっている、という共通点があるから。
これらの作品が書かれたのは、ロマン派のオペラの時代が終わり、イタリア・オペラの世界では(文学と同様に)「ヴェリズモ=真実主義」が生まれようとしていた時代でした。
神話の中の神々や特権階級の貴族ではない、1900年当時のイタリアの人々の生活が、民謡をモティーフにした歌や方言まじりの歌詞で表されるのは、実に画期的なことで、オーケストラは壮麗でダイナミック、歌手たちにも過酷なほどの喉の強さを求められるのが特徴。それによって「本音の泥臭さ」「庶民の素朴でストレートな感情」が伝わってくるのがいいわ。
そして、この二本立てを見た後には、毎回頭が真っ白になってしまう。男を愛したことのある女なら、冷静ではいられなくなってしまうほどの「痛い真実」をつきつけられてしまうからなんです。
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2014.05.10(土)
文=小田島久恵