プッチーニの同時代人が才能の限りを尽くして書いたオペラ
マスカーニとレオンカヴァッロは、オペラファン以外にはあまり知られていない作曲家かも知れないわ。彼らの同世代人には、あまりに偉大なプッチーニがいて、特にレオンカヴァッロは内心プッチーニが憎くてしょうがなかったらしい。プッチーニという太陽の影で、彼らが「二人で一人前」になってしまっているような悲哀はあるけど、何度でも繰り返すように、このふたつのオペラは凄い名作なのです。
マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、あまりに美しい「間奏曲」が有名で、この曲が流れるシーンは物語の中でもとても印象的。映画『ゴッドファーザー』で使用されたことでよく知られるようになった曲だけど、聞きどころはここだけではありません。最初から最後まで、作曲家の情熱がぱつぱつに漲っていて、浮気された女と浮気した男が、激しい二重唱でののしりあうシーンが、著者のおすすめ(かの歌姫マリア・カラスもこのシーンをリサイタルで歌うほど気に入っていた)。
登場人物は、結婚前に処女を失ったために教会へ入ることの出来ない悲劇のヒロイン、サントゥッツァと、その恋人トゥリッドゥ、彼が愛する元婚約者のローラとその夫アルフィオ。男と女の三角関係(四角関係?)が、胸がつぶれるような美しい音楽によって描かれ、その合間に入るシチリアの庶民たちの明るいコーラスも劇を活気づかせているのです。
これはマスカーニ26歳のときの出世作で、イタリアの楽譜出版社のコンペティションで優勝したことで、貧しくて作曲のためのピアノを借りることも出来なかったマスカーニは、一躍オペラ界の寵児になったのでした。
レオンカヴァッロは、マスカーニの成功に刺激されて、『カヴァレリア・ルスティカーナ』が賞をとった2年後に『道化師』を完成。文才にも恵まれていた彼は、自分で台本を書き、圧倒的な音楽的才能によってこのオペラを書き上げたのです。一説によると、判事であったレオンカヴァッロの父親が担当した殺人事件から霊感を得たものだとか。
旅芸人の道化師と妻、その愛人の三角関係(またもや)がドラマを巻き起こす。道化師の姿のまま、劇中劇のようなシチュエーションで妻を刺し殺すシーンは、そこに至るまでの感情の高まりを見ている観客にとっても、とてもショッキング。音楽は、トランプのゲームを展開していくようなスピーディな躍動感に溢れ、歌手たちのキャラの立ったアリアも色彩豊かで、全く飽きることがありません。
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2014.05.10(土)
文=小田島久恵