音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 さて、2014年4月にリリースされる中から、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【2014年4月に流行る曲】
SEKAI NO OWARI「炎と森のカーニバル」

SEKAI NO OWARIは、2011年にメジャーデビューを果たした4人組。13年10月には、富士急ハイランドにて3日間にわたるワンマンフェス「炎と森のカーニバル」を開催した。上の写真は、彼らがこれまでに発表した音源のジャケットの数々。

自分たちの野外ワンマンフェスと同じタイトルを掲げた勝負曲

山口 意外な選曲なんですが、「SEKAI NO OWARI」は、好きですか?

伊藤 好きかといわれても(笑)。2年くらい前に、数人のクリエーターとコライト(共作)しているときにリファレンスとして挙がってYouTubeで「スターライトパレード」のMVをチェックしたのをきっかけに知りました。ヴォーカルの声が印象的だったけど、なんだか“ゆとり世代”を形にしたようなバンドだなって、非常に端的な感想で申し訳ないけど、その時はそう思いましたね。

山口 近年、大学生世代から、圧倒的に支持されているバンドです。ファン層は、ちょっと感度の高い若者たちというのが私の印象です。「セカオワ」って呼ばれていて、最初、何かと思った(笑)。

伊藤 バンド名は印象的だけど、それよりもそのバンド名を考える人間ってどんなひと? って興味をもたされる。そうやって人々に興味を持たせる仕掛けを上手いことちりばめているなって、バンドというよりもコンテンツという言葉が似合ってしまうというか。

山口 このシングルは、富士急ハイランドで6万人を動員した自身初の野外ワンマンフェスティバル「炎と森のカーニバル」と同名の楽曲ですね。SEKAI NO OWARIは、ドラムとベースがいないのですが、エンタメ性の高い独特なステージと評判です。ライブがメインで、一説には、ステージ制作費5億円を超えているとか言われているアーティストですから、フェスと同名のこの曲は、勝負曲でしょう。

伊藤 う~ん、勝負曲なんですかねぇ。正直なところ良くわからないんですよ。そのフェスでは歌われていない曲ってことは、フェスが終わってから作られた曲? なんのために作って、なんで今ごろリリースされるのか? 普通に考えたら凄く段取り悪い、だけどこれだけ大々的にリリースするってことはストーリーに続きがあるんだろうって思います。

山口 バンドの中にストーリーがあるのでしょうね。コアなファンとそのストーリーを共有しているのだと思います。デジタル技術の導入も先端的な印象です。NTTの子会社と組んだ「ひかりTVみらい系エンタメ」(外部サイト)も面白くて好きです。

クチコミを数値化した新ランキング「RUSH」でも首位を獲得

山口 ちなみに、私が注目しているネットのクチコミを数値化した新しい音楽ランキング「RUSH」(外部サイト)では、3/21付けで総合第17位、発売前作品ランキングで第2位。4/9リリース予定作品の中では、SMAPの「Yes we are」を押さえて堂々の第1位です。フェスと同名曲というところも功を奏して、インターネット上のクチコミでの強い人気が証明されています。

伊藤 僕もRUSHは観させてもらっていますけど、オリコンとのギャップが面白いですね。上位に出てくるアーティストの違いもそうですけど、入れ替わりのスピードの違いから、クチコミというものがCDの売り上げほどコントロールされていないことがリアルに感じられるんですよ。

山口 まだα版という段階で、全くPRを行わずに、人知れず発表されているのですが、とても可能性を感じています。関係者から、過去半年間くらいのチャートの動きを見せてもらったのですが、どの作品がユーザーに伝わっているのか、その熱量がわかるようなランキングになっています。

伊藤 そんなチャート待ってました!

山口 昨年末に改訂されたビルボードジャパンのランキング(外部サイト)も、良いですよ。先日、私がモデレーターを務めたトークセッション「MUSIC DISCOVERYの今」(外部サイト)に担当の方をゲストスピーカーとしてお呼びしたのですが、CD売上げ、iTunes配信、ラジオのOA回数などから、総合的につくっているそうです。
 ビルボードが「現在」(先週)の状況をリアルに反映しているというのに対して、RUSHは、来週以降の「未来」を先読みする形のチャートですね。オリコン含めて3つを継続的に見ていくと面白いと思います。RUSHについては、次のヒットを予測するという僕らのコラムとも親和性高いので、今後も紹介していきたいです。

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2014.03.25(火)
文=山口哲一、伊藤涼